小説 書評

君の膵臓を食べたい│住野よる

『君の膵臓を食べたい』
住野よる
双葉社

主人公は、高二の本ばかり読んでるような地味系男子で、クラスでも目立たず孤立もいとわない草食系です。

性格はきわめて内向的。他人のいうことにすぐなびき、主体性がなく、草舟のようにプカプカ浮いてるような輩です。この主人公は、他人との関係をもたず、小説のなかで満足し、自分の世界に閉じこもるきらいがあります。

”僕が人に興味がないからだよ。皆、基本的には人は自分以外に興味がない、つまるところね。もちろん例外はあるよ。君みたいに、特殊な事情を抱えてる人間には僕も少し興味はある。でも僕自身は、他の誰かに興味を持たれるような人間じゃない。だから、誰の得にもならないことを喋る気にはならない”とかいうふうに。

あるとき病院にいくと、主人公はロビーのソファに、文庫本を見つけます。手にとると、文庫本には、闘病日記が書かれていました。日記をかいたのは、おなじクラスの山内桜良です。

桜良のヒミツ

桜良はいつも友達に囲まれ、誰とでも仲良くなれるクラスの人気者でした。明るく、溌剌とし、おしゃべり好きのイマドキの女子です。桜良は、ネクラな主人公と正反対の性格をしていました。

闘病日記を手にとったことで、主人公は、桜良が不治の病を患っていることを知ります。

しかも、そこには彼女の余命が記されているのだから、驚きです。

どういうこと? これと、主人公がたずねると、桜良はわらって「書いてあるのは本当、私は膵臓が使えなくなって、あとちょっとで死にます、うん」とこたえるのでした。

恋のはじまり

病院であって以来、主人公は、桜良に振りまわされる日々がはじまります。焼肉デートをしたり、メロウなカフェでお茶をしたり、新幹線に乗って遠出するなご、草舟さながらに流されてはデートを重ねます。

あるとき主人公は、「なぜ僕と遊ぶのか?」と質問します。桜良はあっけらかんとして、「君には気を使わなくて済むから」と答えます。

死という絶望的な状況をまえに、屈託なく笑う桜良。

主人公は、彼女から目が離せなくなっていきます。

定番か革新か

ヒロインの死。それは時限付き恋愛です。甘酸っぱい設定をきいただけで、胸がしめつけられる感じがします。

のこされた時間のなかで愛を育み、若者はたがいの距離を縮めようと努力します。なのに、ふたりの距離は、なかなか縮まりません。そして、とうとう別れのときを迎えるのです──。

と、この設定だけみれば、二〇〇四年に爆発的人気となった「世界の中心で、愛をさけぶ」とよく似ているのがわかります。青春恋愛ものだし、ヒロインは病気がち。最後に死別という結末が待っているのも、モロ被っています。

しかし「君の膵臓を食べたい」は、「世界の中心で、愛をさけぶ」より、格段におもしろいのです。桜良はじぶんの病気をネタにしていて話が湿っぽくならないし、主人公の軽妙なトークも洒落ています。ストーリーの端々に、悲しさよりおもしろさを出そうとしているのがわかります。

ヒロインが死に、悲しみに打ちひしがれるなんてありきたりです。そんなストーリー、芸がありません。

「君の膵臓を食べたい」は、おなじ設定をつかいつつ、「悲しみ」を乗りこえようとしているのがわかります。悲しみにひたるのではなく、その先を描こうとしているのです。その心意気やよし、大いに買おうではありませんか。 

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