小説 書評

ジェリーフィッシュは凍らない│市川憂人

「ジェリーフィッシュは凍らない」
市川憂人
東京創元社

H山系の中腹でジェリーフィッシュが燃えていると通報があり、捜索隊が駆けつけると、そこには全焼した機体と六名分の遺体が転がっていました。墜落したのはUFA社製の新型気嚢式浮遊艇・ジェリーフィッシュです。新型気嚢式浮遊艇ジェリーフィッシュは、同社技術開発部のメンバーによって航空試験をおこなっていて、その実験のさなかに事故がおこったとみられます。航空試験は当初順調にすすんでいましたが、なにものかによって自動航行システムが改竄され、機体が制御不能となり、極寒の雪山に不時着します。
そして事件がおこったのです。

■謎の墜落

発見された遺体には、いくつか奇妙な点がありました。墜落死した死体は陥没や骨折した箇所があるのがふつうですが、ジェリーフィッシュから見つかった遺体のひとつは、首と手足が切断され、のこりの遺体は他殺の痕跡がのこっていたのです。
この痕跡から、メンバーの死因が、墜落でないことが判明します。つまり、メンバーは墜落してから救援を待っているあいだ、たがいを殺しあい、そのあと火事に巻きこまれていたのです。

禁断の過去

これまで技術開発部の研究成果とされてきた真空気嚢の作製方法──これは原料となる有機高分子、反応に用いる無機系触媒、反応生成物の結晶構造、反応機構といった特殊技術なのですが、じつはこの技術は、彼ら自身が開発したものではありませんでした。

技術開発部のメンバーすなわちファイファー教授らの研究グループが生み出した真空気嚢は、べつの研究者が開発していたのです。技術開発部のメンバーはそれらを盗用し、あろうことか、密かに自分たちのものとして利益を得ていたのです。

■計画殺人

このことに端を発し、ある可能性が浮上します。ジェリーフィッシュの事故は、真空気嚢作成方法の盗用が原因となった計画殺人ではないか。誰かが意図的に墜落事故をおこし、研究成果をぬすんだメンバーに復讐したのではないか。

ジェリーフィッシュの不時着によっておこった雪山の殺人事件。その犯人はいったい誰なのか? 謎の犯人におびえたまま、ストーリーはスリリングに展開していきます。

■素敵なエンディング

物語のラストでは、犯人と刑事たちが対峙する場面があります。犯人との対峙なんていかにもありがちな場面ですが、そこでは金田一よろしく、事件の真相や動機が語られます。あまりにお約束の展開で、ひょっとして犯人は最後の場面で自殺するのではないかと思ったのですが、その期待はみごとに裏切られることになります。

最後のさいごに、ジェリーフィッシュが登場するシーンは、かなり意表をついています。この物語のタイトルが「ジェリーフィッシュは凍らない」であることをふまえると、あれ以上のエンディングはないでしょう。

最高のエンディングですね。

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