あまりSFが得意でなかった。最近は本好きは結局のところSFに行きつくのではないかくらいに思うようになった。世界のある種のルールを変更し、人々の価値観を規定し、かつそこで起こる葛藤をテーマにする。それはSFでしかなし得ない。
突変
森岡浩之
徳間文庫
現実の世界から突然変移して、異世界に放りこまれるSF災害のストーリー。突如出現した異世界で人々はどう生き残っていくのかを描いていて、異世界にやってきた人間が、混乱しながらもず太く生きている様が妙に現実的。人間いざとなれば、目のまえのことしか考えない。頭を占めるのは、食べものことや子どもの心配ばかりだ。世界は変わるのに、人間のエゴはそうそう変わらない。
マルドゥック・スクランブル
冲方丁
ハヤカワ文庫
冲方丁の代名詞的なSF作品。娼婦少女バロットが、ねずみの相棒ウフコックとともに、殺し屋に立ちむかうストーリー。未来的な空間やアクションなど、王道的なSFで安心して読める。なによりおすすめなのはカジノでの勝負で、知能戦と神経戦に電脳戦をまじえた読みあいは、緊張感がみなぎっている。
虐殺器官
伊藤計劃
早川書房
伊藤計劃の長編第一作。暗殺部隊に所属する主人公が、世界に混乱をもたらす謎の男を追うという軍事SF。戦争とSFを読むならこの一冊は外せない。淡々とした描写とともに、自由主義、グローバリズム、紛争や宗教、貧困といったテーマが語られる。哲学書と見紛うばかりの深いテーマは、人間の限界を見てきたかのような冷静な境地へと誘う。
All You Need Is Kill
桜坂洋
集英社スーパーダッシュ文庫
新米兵士キリヤ・ケイジと精鋭兵士リタ・ヴラタスキが、人類存亡をかけバケモノを殲滅していく。ミリタリー的なSFだけにとどまらず、時空的な仕掛けもあり、冒頭からの展開には驚かされる。死と再生を何度もくりかえすキリヤ・ケイジが印象的で、死ねない苦痛を想像するとゾッとする。
マイナス・ゼロ
広瀬正
集英社文庫
昭和前期にかかれたタイムマシーン的なSF傑作。SFはあまり読んだことがないと言ったら、人から「マイナス・ゼロ」をすすめられた。渋々読んでみたところ、ものの見事にハマった。とくにアイデアが洗練されている。派手さはないが、タイムマシーン的な仕掛けだけなら、バックトウザフューチャーを凌いでいる。