小説 書評

オフェーリアの物語

『オフェーリアの物語』
山田正紀
理論社

人形世界

人形世界のミステリィです。
人形世界をSF的装置として使っているところなんかすごく実験的で、さすが山田正紀、衰えることを知らないなと、その独創性に感心してしまいます。
舞台は明治初期。木偶まわりの大道芸人・影華は、オフェーリアという西洋人形を連れ、掘割の街へとやってきました。そこへ狂言一座の太鼓まわりをつとめる風間がやってきて、「霊のついた人形の人形払いをしてほしい」と影華に頼むのです。

話によると、風間が出入りしている菱屋で、人形の顔を刃物で切り裂く奇妙な事件がおこったというのです。しかもそれは過去におこった陰惨な事件に関係があると風間はいいます。

オフェーリアはすぐさま影歩異界を通じて、時間をさかのぼります。そして昔の庄屋にやってくると、オフェーリアは、人形屋敷で男女が顔をズタズタにされ素っ裸で死んでいる場面に出くわします。不可解なことに、男は死に際に「人形にやられた」という謎の言葉を残していたのです。

時代劇とSF

こともなげにさらっと書いてるんですが、やってることはすごい。
オフェーリアが時間をさかのぼることで、舞台をいっきに江戸情緒あふれる文化文政へと移行するのはおろか、「照座御代」「影歩異界」といったワードメイクで精巧なSF世界を構築し、さらには本格顔負けのミステリィまでこなしてしまうなんて、これほど欲張りな作品はないでしょう。

人形を使ったミステリィというと『人形草紙あやつり左近』を思い出しますが、『あやつり左近』は人形師と人形がセットになって事件を解決するのに対し、オフェーリアでは人形だけが異界へとトリップし時間を遡り、当時のキャラクターの視点へと入りこみ事件をながめて帰ってくるという形式です。なので、純粋に人形だけが事件を解決してしまいます。
動かない人形がどうしたら探偵にできるのか。
この問題を解決するためにこの装置が生み出されたのだとすれば、それはもう仰天の発想ですね。

-小説, 書評