小説 書評

首なし男と踊る生首│門前典之

「首なし男と踊る生首」
門前典之
原書房
 

クロス・ウェディングの正丘社長が立てた殺人計画により、事件は幕を開けます。流行に敏感で飽きやすい日本人に対し、割安なウェディングプランを提供するクロスウェディング社は、効果的な内装でまがい物を本物に見せ、頻繁に内装を更新するなど、あの手この手で利益を伸ばしてきました。

が、会社の中核メンバーは、そのノウハウを持ちだし、新会社の設立を目論みます。中核メンバーがホテルやレストランと提携をすすめているのを聞きつけ、正丘社長は激怒します。そして、彼らの裏切り行為に報復すべく、食事会という名目で教会工事現場に呼びよせ、睡眠導入剤でねむらせ、メンバーを殺害します。

助手、現る

同じころ、探偵助手の宮村は、教会の建設現場を訪れていました。施工図契約しているZ建設の工事が中断しているのを知り、作業所長・平松の陣中見舞にやってきたのです。
居酒屋で、クロスウェディング社が基本プランの変更し確認検査がすすまないと、平松の愚痴を聞いていたところ、外で強風が吹きはじめます。現場が気がかりな平松と宮村は、酒を切り上げ、建設現場へむかいます。

雨にぬれながら現場を見まわると、平松は、廃屋建物である人物を見かけます。その人陰は寺岩によく似ていました。寺岩はクロスウェディング社のナンバー2で、正丘社長の片腕と称される人物です。そしていうまでもなく、新会社設立を目論む中核メンバーのひとりでした。
なぜ寺岩がいるのか? いや、そもそも見かけたのは本当に寺岩だったのか?

平松が怪訝に思っていると、疑念を挫くように地滑りが発生。大岩が転がりだして、廃屋のドアを塞いでしまいます。

踊る生首

宮村と平松がアセチレンガスに火をあて、鋼製のドアを焼き切ると、なかから首なし男があらわれます。首なし死体は両手に比翼の大斧を持ち、大斧の刃先は木製棚に食いこんでいました。そして信じられないことに、大斧の刃には切断された頭部───生首がのっているのでした。

陰惨な光景に、ふたりは息を飲みます。直後、土砂崩れと鉄砲水が襲いかかり、宮村たちは逃げだします。と同時に、首なし死体は土砂に飲みこまれていきます。

時を同じくして、地元の若者でケーブル泥棒を働いていた工藤が、工事現場の裏手にある竹林を歩いていると、腐葉土のつもった地面から意外なものを見つけます。それは切り取られた人間の頭部───生首でした。その頭部は、宮村たちが発見した生首なのか? 現れては消え、消えてはあらわれる生首に、事件の謎は深まっていきます。

密室

生首に目を奪われがちですが、このミステリィのおもしろさは密室へのこだわりにあります。密室inと密室out、このふたつを比べていて、そこが非常に凝ってると思います。

ひとつめはinで、廃屋でみつかった比翼の斧の殺人事件です。このとき鋼製のドアで仕切られた廃屋のなかは、土砂崩れに遭い密室となっていました。密室のなかでどうやって、
・首が切断された死体が生まれ
・斧のうえに生首ができたのか
それが問題となります。

もうひとつは、密室にあったはずの生首をいかに持ちだしたのか───すなわち密室outの問題です。廃屋とともに土砂に埋まったはずの生首が、どうやって抜け出し、竹林に移動したのか? ひとつの死体で密室が二回仕掛けられているところに、マニアックさを感じます。

本格といえば門前

門前典之は、非常に好きな本格推理作家です。浮遊封館の過剰性には度肝を抜かれましたし、屍の命題では、猟奇趣味に走りながら本格の意匠をみせつけています。しかもどの作品も名作といわれる本格のトリックを踏襲しつつ、それを上回る仕掛けを施しています。そのあたりに作者の野心があると思います。

数少ない本格推理の書き手となった今、門前典之への期待は高まります。次回作が待ちどおしいかぎりです。

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