小説 書評

デッドマン│河合莞爾

「デッドマン」
河合莞爾
角川書店

バラバラ殺人事件の犯人をベテラン刑事が追う話です。警視庁捜査第一課に籍をおく鏑木は、四十五才。日々の捜査に疲れ、頭は鉛がはいったように鈍く、一見するとただのぼんくらにしか見えません。

そんな鏑木のもとに電話が入ります。電話をかけてきたのは入庁三年目の姫野でした。姫野は開口一番「マンジュウです」とのたまいます。

その言葉をきいて、鏑木は顔をしかめます。姫野は刑事にもかかわらず刑事オタクで、オタクであるがゆえに、好んで符牒を使うのでした。ちなみにマンジュウは死体のことです。

鏑木は姫野の車にのり、現場に急行すると、浴室のバスタブに死体が転がっていました。そして死体はただの死体ではなく、首からうえがなくなっていました。何者かが頭部を持ちさった首のない死体。事件は異常犯罪としてスタートします。

荒れる捜査本部

麻布十番マンション殺人事件と命名されたこの事件は特別捜査本部が設置され、捜査会議の席で鏑木は、ホシが欲しかったのはガイシャの命じゃなくて、頭部だったのではないかと、大胆な説を披露します。当然、根拠に欠ける鏑木仮説は、他の捜査員から顰蹙を買います。

が──。
ただひとり、鏑木の発言に目をつけた人物がいました。捜査第一課の元原良彦警視正その人です。元原は鏑木の上司で、鬼原の異名をもつ、強行犯捜査係きっての辣腕刑事でした。

鬼原は即座に管理官の承諾を取りつけると、鏑木に捜査の指揮をとるよう命じます。異例の指揮官任命に、会議室は騒然となります。しかし切れ者・鬼原に反対できる者は誰もおらず、周囲の反対を押し切るかたちで鏑木捜査班が始動します。

甦る占星術殺人事件

その後、事件は、
胴体のない死体
右手のない死体
左手のない死体
右足のない死体
左足のない死体

が立てつづけに見つかり、六連続殺人事件へと発展していきます。時をおなじくして、とある患者が、ベッドの上で目を覚まします。その患者は、自分が四肢を結合されていることに気づきます。右手、左手、胴体、そして頭部。結合されたその部位は、奇しくも六連続殺人事件で持ち去られた身体部分と一致していました。

体の一部を奪われた殺人事件と、四肢をつなぎあわせた男。両者には、どのように関係が存在するのでしょうか?

SFにしか見えない

「デッドマン」は島田荘司の占星術殺人事件をモチーフにしていて、バラバラ殺人に、バラバラにすることの意味を付与したところに意義があります。四肢を結合した患者が出てきたくだりでは、完全にSFだとおもって読んでいたのですが、結末での展開にはあっと驚かされました。

典型的な警察小説としてはじまり、占星術殺人事件をきっかけに本格推理を意識させつつ、四肢を結合させた男を登場させることでSFへと転換してみせるなど、とんでもない離れ業を見せています。結果、それをミステリィの枠組みに収めるあたりは驚愕のテクニックです。

展開に強引なところもあるにはあるのですが、終盤にかけて、鏑木捜査班が事件の背景にたどりつくあたりは、現実と非現実がうねる感じがして読みごたえがあります。物語の枠組みがぐらっと変わるあたりが何ともいえません。とてもおもしろい作品です。

実験的な試みでありながら、読み手のおもしろさを損なうことなく娯楽性も十分。どこから読んでも傑作ですね。

-小説, 書評