小説 書評

アリアドネの弾丸│海堂尊

『アリアドネの弾丸』
海堂尊
宝島社

前半がのらりくらりした会議劇で、後半から殺人がおこり東城大学を巻きこんでの一大事件へと発展していきます。 AIセンター運営連絡会議が行われ、AI導入を推進する田口派と反AI派の法医学・警視庁連合が対立する構図で話ががすすみ、ちょうどその会議中に、MRI・コロンブスエッグの前で北山元刑事局長が殺害されます。

現場に居あわせた宇佐見警視が、容疑者として高階院長を確保
東城大学は、病院長が殺人事件の容疑者になるという一大スキャンダルを迎えます。もちろん、一連の殺人事件は宇佐見警視の捜査もふくめ、反AI推進派の陰謀なわけですが──。
 大学病院の危機を救うべく田口・白鳥コンビが事件の解決にむけて動き出し、最終的に殺人事件をめぐる宇佐見警視vs白鳥のロジックの応酬で、雌雄を決することになります。

バチスタ再来

前半はけっこうダレる感じがします。AI導入と官僚の抵抗にまつわる会議劇は、「もういいよ海堂尊……」と正直ウンザリの感が。そのへんはなんといいますか、ガマンのしどころかなと思います。 

反面。
後半のミステリィは気にいっています。謎の解明――厳密にいうならそれは解明の論証の仕方なのですが――それが数学的証明に似ているところがあって、おもわず「おっ」と目を引きます。ひとつの証明ができるとその証明をつかって他の命題すべてを証明できてしまう論理パズルは爽快です。なんというか、オセロの角をとったとき、白から黒へと全部裏返しになるみたいな、してやったり感があるわけです。 
海堂尊はいろいろ作風を使いわける器用の御仁ですが、『アリアドネの弾丸』は、バチスタ以来のミステリィ回帰です。これを読み逃すのはもったいない。 

にしても。
バチスタシリーズは他の作品との関連が多く、設定やら伏線が作品横断的に張ってあって、とりわけ作品以外の世界観が共通で敷いてしまう制作方法は、森博嗣のS&Mシリーズと似ているなとおもいます。 

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