小説 書評

虚実妖怪百物語┃京極夏彦

「虚実妖怪百物語」
京極夏彦
角川書店

加藤保憲の陰謀によって、妖怪が迫害され、妖怪をまもるために妖怪バカが立ちあがるという荒唐無稽なお話しです。いや、たちあがるというか。ただ逃げまわるだけなのですが──。

この小説には、実在する人物がキャラクターとして登場します。「怪」編集部を中心に、水木しげる、荒又宏、京極夏彦、多田克己といった妖怪馬鹿はもちろん、郡司聡、似田貝大介、東雅夫、梅沢一孔といった編集者やら、黒史郎、松村進吉、平山夢明といった怪談作家の面々、そんな実在するキャラクターが登場しては、実話ベースのエピソードが語られます。
それはもうシニカルに。
興味本位に。
おもしろおかしく。
とても無責任に。

読んでる方はおもしろいのですが、書かれた本人は溜まったものじゃないですよね、これ。なのに、作家はフィクションをかたっているのですから、ひじょうに性質がわるい。なにかの厭がらせでしょうか。

あてがき

三谷幸喜はよく当て書きで脚本を書くことで有名ですが、「虚実妖怪百物語」も、実在の人物をあてています。というか、あてるだけでなくそのまま本名で登場させていて、これはもういい逃れできません。よくよく読んでみると、これは、創作に見せかけ文句ではないかと。ディスってるだけじゃないかと。ただの身内の笑い話ではないかと。そう思えてくるのですが、たぶん気のせいでしょう。かの大京極が、そんなことするはずありませんもの。

駄作か大作か

虚実妖怪百物語は、序・破・急の三冊あって、いずれも四〇〇頁を超えた大作です。いや大作というか、駄作といわれても否定できないのですが。かなりの分量があって厚さもすごいですが、なにがすごいかって、ぜんぜん話がすすまないこと。

<序>の半分──二二六頁あたり──にさしかかっても、まったく話が展開しません。先に進まない。進めようという気がない。遅々としてすすまない。二〇〇頁といえば、ふつう物語の中盤ですよ。ストーリーが折り返さなきゃいけないのに、まったく展開しないのです。これは驚愕に値します。なんだこの遅さは! やる気あるのか! と叫びたくなります。

でも、これが癖になるんですよ。この遅さにじっくり浸るのが京極流──そんな流儀はない──とかの大京極はおっしゃるでしょうけど。

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