古今東西ミステリィが愛されるのは、ためらいなく死体が登場するからだとおもう。死体が織りなす異常空間に、人はみせられる。そしてその空間が異常なものであればあるほど、作品は輝きを放つのだ。

GOTH
乙一
角川書店
グロテスクな死体を嗜好する高校生が、謎を解きあかしていく短編ミステリィ。死体や異常な癖をもつ犯罪者やグロテスクな死体が次々と登場しては、事件に巻き込まれていく。死体もさることながら、忌むべき死体を愛好する主人公がとてもチャーミング。

出版禁止 死刑囚の歌
長江俊和
新潮社
子どもを殺した殺人犯が詠んだ短歌が出版され、世間は騒然となる。詠まれたのは殺害後の血にまみれた光景であり、罪を犯した犯人が笑みをうかべる姿だった。いったい誰がなんの目的でこんな凄惨な歌をよんだのか──。短歌の意味を知る前とあとで、まったくちがう光景が現れる。これぞ大どんでん返しというべきか。

OUT
桐野夏生
講談社
ごくふつうの弁当工場でパート勤務する女性が、犯罪に転げ落ちていく。浴槽で死体をきり刻む場面は常軌を逸していて、死体を扱うことに慣れていくさまは異常でしかない。グロテスクな作品は大なり小なり毒があるが、「OUT」はかなり大量の毒をふくんでいる。

死体は語る
上野正彦
文春文庫
監察医が、検死や解剖といったみずからの仕事を紹介している。実際にあった奇怪な事件にまつわる謎は、下手なミステリィよりおもしろい。また死体をモノとしてあつかう職業のせいか、筆者のかんがえる死生観も独特。なかなか考えさせられるものがあった。