読めどもよめども、話がすすまない。どこにも向かわないジレンマを抱えた作品は、濃い霧のなかを手探りですすむかのようだ。どこを歩いているのか、どこに至るのかまるでわからない。そんな状態にありながら、この作品がずっと終わらなければいいのにともおもってしまうのはなぜだろう。どこにもいけない物語はやはり中毒性が高い。

数えずの井戸
京極夏彦
角川書店
播州皿屋敷をモチーフにした怪談小説。皿がみつからないことで周囲で軋轢が生じ、おなじ屋敷のなかで皿がない皿がないと物語がリレーしていく。気がつくと、人間関係が崩れだしている。おなじ内容をくり返すだけなの、疑心と不満だけだ溜まっていく。京極夏彦の執拗さは癖になる。

万事快調〈オール・グリーンズ〉
波木銅
文藝春秋
田舎の高校生が学校の屋上で大麻を栽培し、金を荒稼ぎする犯罪小説。犯罪小説でありながら、ドラッグ、音楽、レイプ、同性愛といろんな要素がひしめきあっている。そういった様子はとても今どきで、ポップな装いがする。しかし、この作品の根底にあるのは鬱屈する若者の心情ではないか。どこにも行けない、未来がない、なにもすることがない。青春を描きながら、もう一方で青春のおわりに訪れる絶望を突きつける作者の感性は、相当に歪んでいる。

DINER
平山夢明
ポプラ社
オオバカナコは、殺し屋があつまる定食店でウエイトレスとしてはたらいている。この店に通う客はすべて殺し屋で、カナコは細心の注意をはらって人を殺した人間から注文をとり、料理を提供し、食後のコーヒーを注いでいる。異常者めいた殺し屋のふるまいと、なにがおこるかわからない緊張感で、店内には異様な空間に包まれている。こんな空間にいるのは死んでもいやだ。

ねじまき鳥クロニクル
村上春樹
新潮社
村上春樹の長編。法律事務所をやめて失業中の男が、ワタヤノボルという猫をさがし、十六才の少女と邂逅する。かなり長い話にもかかわらず、物語は進展らしい進展がほとんどない。どこにも行けないし、なにも変わらない。これをどうやって終わらせるのかとやきもきしていると、あっとおどろく終盤が待っていて──。