小説以外のもの 書評

大局観

『大局観』
羽生善治
角川oneテーマ21

あらすじ

若いころは勝ちはないと思われる劣勢な状況でも、くそ粘りして終盤に勝ちを拾っていたと羽生さんはいいます。しかし、今はもうそういったことはないんだとか。それはなぜか? 経験を積むことで「大局観」が備わったから、なのだそうです。

天才も成長している。
あるいは変化し、適応している。
そんな心持ちかもしれません。

羽生さんは、大局観がそなわるメリットは、選択肢を限定できることだと述べています。選択肢を限定できるので、自分から道を外さなくて済みます。それは悪手をおそれず、どっしり構えて打てるという意味ではないかと思ったりします。

将棋に正解があるとしたらそこに到達するのは困難で、できるのは正解に近づくことのみ。だとすれば、できるだけミスをせず、リスクを減らし慌てず動かず、最善手に着目して指す。大局から他をみて些事を捨てるというのは、ひとつの境地といえるでしょう。

選択肢と幸せ

この本のなかですごく印象に残っているのは、選択肢の多さです。現代の社会は選択肢の多いことが、後悔しやすい原因になっているのではないかと羽生さんが触れています。現代は一見して豊かです。ちまたにはモノがあふれ情報が氾濫しています。しかし豊かとはいいながら、一方で幸せを感じにくくあるのも事実です。
そんな現代の病巣の一端を、羽生さんは「大局」から眺めているのでしょう。 

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