
ドロシイ殺し
小林泰三
東京創元社
現実の世界とホフマン宇宙を行ったりきたりしつつ、アーヴァタールと登場人物のあいだにギャップをつくりだし、それを誤った方向/ミスリードに変換するのが、このシリーズの特徴です。前回の「アリス殺し」は、当然、鏡の国のアリスがモチーフになっています。そして今回はドロシイ殺しなので、いわずもがなオズの魔法使いがモチーフになるのですが、やや難易度があがっているように思います。
なにが難易度かというと──。
オズの魔法使いは、意外と話の筋をおぼえていないんです。魔法の国に迷いこんだ少女ドロシィや案山子、ブリキの樵、臆病ライオン、オズの国の支配者オズマなどが現れるくだりは、オズの魔法使いなど読んだことはないものの、
──ああ、あれね。
となんとなく知っていたりします。
キャラクターですからね。ストーリーを知らなくてもいけます。
ただ読みすすめるうちに、
──あれこんな感じだったけ。
とストーリーがあやふやになっていきます。
犯罪事件が起こりてんやわんやするなか、うろ覚えにうろおぼえを重ねていってオズの魔法使いのストーリーをあらためて知るみたいなところがあり、というか、ここまでくるとそれはもはや話を知らないのとおなじです。
このシリーズの展開として、最後に大どんでん返し的があって犯人が明かされるという趣向があり、その犯人がミスリードされていた人物とはまったくちがうので驚くつくりになっています。この大どんでん返しが最大の見せ場といっていいでしょう。
が、にもかかわらず──。
その仕掛けが発動したあとも、「あんた誰?」的な反応しかできませんでした。べつの意味でびっくりしました。
ええ、そうです。
オズの魔法使いのストーリーなんてうろ覚えもいいところ。意外な犯人といわれても、「あんた誰?」ってなりますよ。