
蜜蜂と遠雷
恩田陸
幻冬舎
ピアノコンクールを通して、若きピアニストたちの葛藤を描いた群像劇。若さと無謀、野心と期待、そしてそれにともなう幾ばくかの挫折が混ざりあう。本を読んでいるのに「蜜蜂と遠雷」をよんでいると、ピアノの音がきこえてくるから不思議だ。

邪魔
奥田秀朗
講談社
なんでもない日常から犯罪へ転げおちていく、群像劇のかたちをとった社会派小説だ。取り立ててユニークなキャラクターがあるわけでもなく、強い主題があるわけでもない。そこにあるのは犯罪という偶然だけ。なのに、こんなにおもしろい。いろんな人のいろんな日常があり、ふとした瞬間にそれが邂逅するのがおもしろい。

数えずの井戸
京極夏彦
中央公論新社
播州皿屋敷の怪談を、複雑な人間模様が絡みあう小説に仕立てなおしている。探せどさがせど皿が見当たらない。たったそれだけのことで、人間が狂っていく。そして狂ったなにかが伝播して、やがて人間関係が崩れだす。やはり怪や怖さというのは、人間の心の奥にあるのだ。

マリアビートル
伊坂幸太郎
角川書店
殺し屋たちがおなじ新幹線に乗りあわせたことで、図らずしも殺し屋サバイバル合戦がはじまる。殺し屋が殺し屋をよぶというか、誤解が誤解をまねくというか。殺し屋一人ひとりの個性が群像劇を加速させていくのが見どころ。

世界は分けてもわからない
福岡伸一
講談社現代新書
著者自身が化学研究室で体験したミステリィめいた出来事を綴っている。遠いところから話が始まってテーマが交錯し、思いもよらないところに連れてかれる。これは生物学の話なのか、ポスドクの内情を綴った雑記なのか。いやひょっとしたら新手のミステリィなのかもしれない。読む者は惑いながら、ふとした瞬間にこう思う。これは群像劇ではないか──と。

突変
森岡浩之
徳間文庫
異世界に放りこまれた人間がたくましくサバイバルするSF小説。特異な環境におかれたとき人間の本性があらわになるのがおもしろい。だがいかなる環境であっても、人間は人間であることの営みやめないというのは真実だろう。むろん、それは小説/フィクションのなかでの真実になるのだが。