
『バベル』
日野草
角川書店
この物語を案内する義波は、復讐代行業者です。彼は人の恨みを晴らす仕事を請けおっていて、ターゲットの探索、捕獲、肉体的精神的な拷問、殺し、そして死体の始末をしています。
実際のところ、復讐代行業にはそれを遂行するチームがあり、義波は復讐をあたえる役割、すなわち贈与者のポジションで、贈与者=giver=義波と名乗っています。

そして、登場するのは、義波の罠に嵌った人たちです。高層ビルに爆弾を仕掛けたテロリストや、振り込め詐欺グループの一員として被害者と会っていた男、あるいは水死した親友の仇を討とうとする女子大生が登場します。
彼らは、過去の恨みやあやまちを晴らそうとするのですが、物語の終盤にさしかかると、その復讐が、実は義波によって演出されたものだとわかり、登場人物らは、恨みやあやまちが自分に跳ねかえったことに気付きます。
騙そうとおもっていたのに、じつは騙されていた。
復讐しようとおもっていたのに、自分が復讐されていた。
そういった反転や、犯罪者の意図がそのまま自分に跳ね返ってくる様が、見ていて痛快です。
この物語の魅力はなにか?

この物語の魅力は、因果応報にあるとおもいます。過去に自分のおかした罪が最後の場面でぴたりと嵌るところなんか、読んでいて気持ちがいいです。罠を仕掛けた方が罠にかかっているというのも、いささか典型的ですが、トリックとしてはきわめて秀逸です。
追加の魅力はなにか?

「バベル」を読んでいて気が利いているとおもうのは、さきに進むほど、設定が深くなるところです。
物語がすすむにつれ、仲間や依頼主、それに義波の過去が明らかになっていきます。時系列をさかのぼると同時に設定が深堀りになっていて、そのあたりに連作としてのつながりや、物語全体の奥行きを感じます。