
『許されようとは思いません』
芦沢央
新潮社
男は恋人といっしょに、かつて祖母のすんでいた村をめざしていました。男は恋人と結婚をかんがえているのですが、なかなかそのことを切り出せません。なぜなら、男の祖母は殺人犯だったからです。
祖母は、村のなかで村八分にあっていました。きっかけは男の曽祖父が村の水門を勝手にあけたという些細な理由ことで、本来なら曽祖父が非難されそうなものですが、曽祖父の面倒をちゃんとみないという理由で祖母がやり玉にあがっていたのです。
ある日、祖母があるいていると、中干しされた田んぼに水があふれているのを見つけます。そして、それをみた村人は激怒し、祖母をなじります。

祖母は石を投げつけられながら平謝りし、急いで家に帰ります。すると曽祖父がいて、にやりと笑うのでした。水門をあけたのは曽祖父で、曽祖父は村人がこまると知りながらわざとその行為におよんでいたのです。そのことを知った祖母は激怒し、包丁を手にとり曽祖父を殺害します。
サプライズは動機
短編の推理小説です。わりと粒ぞろいの作品がそろっていてたのしめます。あらすじだけ聞くと、陰湿な田舎を題材にした古めかしいミステリィにきこえます。たとえていうなら、横溝正史の匂いがただよう感じでしょうか。

「許されようとは思いません」の魅力は、最後にあかされる動機にあります。ラストのあり得ない動機には驚かされました。そして他家に嫁ぐということ、家族になるということはこういうことかと、あらためて考えさせられました。そういう意味で、この短編群は、「〇〇しないために、あえて〇〇する」という動機がつらぬかれているように思います。動機でひもとかれるミステリィ。しかもその動機が、なかなか厭な味をだしています。
他人に薦めるには不向きですが、自分で読むぶんにはこういう作品がいいですね。