小説以外のもの 書評

すごい実験│多田将

「すごい実験」
多田将
イースト・プレス

超新星爆発とは、大質量の恒星が、その一生を終えるときに起こす大規模な爆発現象をいいます。爆発なので、実際は星が死ぬところなのですが、新星爆発は地球から見ると新しい星ができたように見えるらしいです。そのため、<超 新 星ちょうしんせい>とも呼ばれています。

超新星爆発は、光だけでなくニュートリノも飛ばしていて、

”超新星爆発です。
星が死ぬときって、バーンと爆発して、断末魔のようにものすごい光が出て、昼間のように明るくなるらしいんですけど、それだけじゃなくて、ニュートリノも大量に出るんですね。大量のニュートリノが地球に向かってばーっと飛んで来たところを、なんとこのカミオカンデがキャッチしたんです。”

と説明しています。

ニュートリノ発見

天体物理学者の仮説では、ニュートリノは10秒くらいの間だけ固まって出るといわれていて、星が爆発したとき、実際にカミオカンデでは、ノイズのようなデータが測定されています。

こういった最新の科学事情を、「すごい実験」では、ものすごく砕けた口調で表現しています。

”これがそのときのデータです。下のほうの点は「バックグラウンド」と言ってノイズみたいなものです。測定器というのは、常に偽物信号がバラバラ出ているんですね。バックグラウンドが出ているなか、超新星爆発の瞬間にはバン!と跳ねあがっています。”

”実はですね。天体物理学者たちは「星が爆発したときは、光はかなり長いあいだ出続けるはずだが、ニュートリノは10秒くらいの間だけ固まって出るはずだ」と予言してたんですよ。それとぴったり合っていた。だからもう、「これはすごい!」となったわけです。”

地面を通過

では、なぜニュートリノが観測できるか? ニュートリノは、ビームを飛ばしてカミオカンデでキャッチする仕組みとなっていて、あまり遠くにビームを飛ばすため、ビームが地中を通ることになります。地中をとおって実験に差しつかえないのか心配ですが、

”ニュートリノビームが送られている間に、障害物はないのですか?
ビームはこのように走っています。
地球が丸いために、地面の中を通っているんです。よく「パイプが通ってるんですか?」って訊かれるんですが、そんなことしたらえらいお金がかかりますから、パイプなんて通せません。岩盤の中と通ります。これは、ニュートリノだからできるんですよ。地球の直径13000キロを通り抜けたって、50億分の1しか減らないんですから、こんなたかが300キロくらい通ったって、ほとんど減りません。”

ということらしいです。

ものすごい力業

では、ここで今日の目玉をひとつ。スーパーカミオカンデはなぜニュートリノを検出できるのか?

地球をすり抜けるニュートリノをなぜカミオカンデは検出できるのか?
検出の原理を言っても、納得できない人が多いんですよね。「なんで捕まえられるの?」って。地球の大きさを使っても50億分の1しか当たらないんだったら、たかが5万トン程度の水じゃ全然だめなんじゃないの?って思うわけです。
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる
です(笑)。つまりね、確率なんです。50億分の1っていうのは、確率が低いわけです。低かったら数撃ちゃいいんですよ。そしたら見つかるでしょ、っていう話。ほんとにこの力業なところが、素粒子物理学らしいんですが……。”

通常だとできないものを、科学では、力業で可能にしているのです。しかもその理由が、数打ちゃあたるの世界っていうのがまたすごい。理論も工夫もなく、たんなる物量。力押しです。最先端科学の研究がものすごく雑な方法──原始的発想によって行われているのがよくわかります。にしても、それでいいのでしょうか。

理解のレベル

多田将のすごいところは、科学者なのに、まるで科学者らしからぬ口調をつかっていることです。なぜ多田は平易な口調でかたるのか? ここに多田のすごさが隠されています。多田は、素人がわからない箇所がわかっているというのがひとつ、もうひとつは、どこまで下げれば素人が理解できるかを知っています。

見た目は茶髪でチャラく、頭良さそうにも見えません。だけど、わからない箇所がわかっているというのは問題提起にすぐれた人で、どのレベルまで下げればわかるのかを知っているというのは、距離感にすぐれた親切な人といえます。

ことさら難しい話題がつづくのに、読んでて一向に飽きないのは、彼のくだけた口調のおかげです。また、それができるのは、語り部としての彼の才能によるところが大きいとおもいます。

って、誰もそんなとこ見てやしないでしょうが。

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