文脈でよむ

犯罪小説がおもしろい

罪の声
塩田武士
講談社

「ギン萬事件」と称しているがこれがグリコ森永事件を素にしていることは明らかで、グリコ社長誘拐事件、キツネ目の男、脅迫につかわれた録音テープなど、当時ワイドショーを賑わせたネタがこれでもかと登場する。身代金受け渡しの場面での警察のやりとりは臨場感たっぷりで手に汗にぎる。
塩田武士は新人のとき、グリ森事件を題材にした小説を書きたいといって編集者に止められたという。その判断は正解だった。ここまで待ったからこそ「罪の声」は最高のエンターテイメントになったのだ。

熊と踊れ
アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ
ヘレンハルメ美穂 羽根由訳

三人兄弟が、軍から銃器をうばい銀行を襲撃する犯罪小説。凶悪事件をくりかえしているにもかかわらず、兄弟のキズナは深く、事件をおこすたびに兄弟の団結がつよまっていく。緊迫感あるテンションとあいまって、兄弟愛は感動を誘う。でもいちばん驚くのは、これがスウェーデンで実際にあった事件だということ。

レディ・ジョーカー
高村薫
毎日新聞社

日之出麦酒をリストラされた男が、レディ・ジョーカーと名のり企業を恐喝する。犯人も警察も虚ろなまま、事件と捜査が淡々と進行していく。犯罪に熱狂しながら、どこにも行きつかず、だれも救われない。ただ大きなシステムのなかで狂騒がひしめきあうだけなのだ。そこにはなにも生まれない。そういったやるせない犯罪を語るのに、高村の硬質な筆致はよく似合う。

連合赤軍「あさま山荘」事件
佐々淳行
文春文庫

連合赤軍が長野県あさま山荘に立て籠った事件を描いたノンフィクション。実際にあった事件であり、その意味で犯罪小説とはことなるが、連合赤軍「あさま山荘」事件をあえてピックアップした。フィクションとは一線を画すよみごたえがあり、なによりリアリティがちがう。指揮官・佐々の苦労もひとしおだが、細部まで逐一記録されている点が優れている。余談だが、あさま山荘事件ではじめてカップヌードルは供された。それも極寒の地でどうやって食事をとったらいいのかという現場の知恵だった。

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