小説以外のもの 書評

野村の遺言│野村克也

「野村の遺言」
野村克也
小学館

昨今のプロ野球ではトリプルスリー二刀流がもてはやされ、イチロー・松井時代や松坂世代は過去の遺物となった感があります。球界には新時代が到来しています。しかし、時代を席巻するトリプルスリーも二刀流も大したことないと、野村監督は評します。相変わらずのメッタ斬り。さすがボヤキの神様。言いたい放題です。

打者が活躍するのは捕手のチカラが落ちているからで、相対的な捕手能力の低下が、現在のプロ野球の課題だ───と野村監督はいいます。

■野球の本質

野球とはなにかと問われれば、ふつうの人は、打って、投げて、走るスポーツと答えるでしょう。ファンは一流の技を観るために、球場に足を運びます。ホームラン剛速球、三振に盗塁、緊迫した場面での選手の躍動に観客は沸きます。

しかし野村監督からみると、野球は、知力を競うスポーツとなります。技でも身体能力でもなく知能。まるで見方がちがうのです。

その知力を競う野球において、頭脳の役目をはたすのが捕手です。捕手は相手打者のデータを蓄え、洞察によって配球をきめ、投手をうまくリードし、試合を運ばなくてはいけません。にもかかわらず、現在の野球には、深い洞察が見られない。野村監督はご立腹です。

身体能力はあっても知力に欠ける。だから、トリプルスリーも二刀流も活躍できるのだ、と監督はボヤくのです。

■生涯一捕手

「野村の遺言」には、捕手についても書かれています。これまでさまざまな言葉で、監督論、組織論をかたってきた野村監督ですが、打撃とキャッチャーについては、あまり語っていません。それだけに、キャッチャーについてあますことなく語った「野村の遺言」は、貴重な一冊だとおもいます。

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