小説以外のもの 書評

心が折れる職場│見波利幸

「心が折れる職場」
見波利幸
日経プレミアシリーズ

この本がいいたいのは、気づきと声掛けの大切さです。ある介護施設では、介護士長によってメンタル不調者の数が大きくちがい、特定の介護士長のもとでは不調者が出ず、べつの介護士長のもとでは、不調者、離職者、業務上のミスも多くなるといいます。

おもしろいのは介護士長が職場を変わった場合、異動先でも、その傾向がでることです。不調者を出さない看護士長は、なにか秘訣をもっているのでしょうか。

不調者をださない看護士長は、「大変だったね」「うまくいった?」「うまくいかなかったら、また相談してね」など、絶えず声掛けをしています。そうやって管理者が気にかけていると、介護士のあいだでも声をかけるようになり、自然とおたがいをサポートする環境ができてきます。

■サポート体制

過酷な職場において、いかにサポート体制を構築するか? これには問題がふたつあります。

ひとつはサポートする側の問題です。サポートする側の人間、上司などは、業務を指摘したり教えることはできても、気づきや共感については、案外、不慣れなものです。

また、サポートを受ける側にも問題はあります。サポートされる部下は最近はめっきりプレッシャーに弱くなり、そのくせ仕事では他人に迷惑を掛けたくないと思っています。いざ困ったときに、どうやって頼ればいいかわかっていません。頼り方がわからないので、どうかしなきゃという局面を解決できず、ひとりで抱え込むことになります。

ゆえにひとりで背負って耐え切れなくなり、仕事を辞め、一人ひとりの負担がふえて職場環境が悪化するというサイクルになります。場馴れしてないのが原因ですが、ただ、場馴れ以前に、最近のわかい人は世慣れていないことが多いので、ひょっとしたら世代的な問題かもしれません。

■スマホが原因?

昨今、心が折れやすい職場が増えたといわれるのは、サポートする環境が減ったことが原因ではないでしょうか。

しかし、よく考えると職場だけでなく、社会全体からサポートする環境が失われているような気がします。サポートの意識が薄れ、他人に興味がなくなり、不寛容社会がうまれる。これはすべておなじ原因です。

その一因を携帯とスマホにもとめるのは安易ですが、だからといって、まったく関係ないともいえません。SNSが発達して情報がまわり、世の中便利になっているのに、気づきの場面はあきらかに減っています。スマホばかり見ていて他人に興味をもたず、興味がないから関わろうとしない。そんな人が増えています。そのため、ますます人の関わり方が、わからなくなっています。

SNSはいい情報はまわってくるけど、悪い情報はなかなかまわってきません。結果、問題発見も解決方法も後手にまわります。悪い情報を知るには、結局、声掛けと気づきが一番有効です。それが、たとえアナログな手法であったとしても。

アナログが重要というのはいいのですが、いままで普通にあった声がけが、なくなりかけていることに心底おどろきました。もし、このままアナログが廃れていくとしたら───。

そのことを考え、すこしゾッとしました。

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