文脈でよむ

都市デザインについて考える本

100年後の日本がどうなっているか、それについてどう対応するかについて考えていた。今後日本は縮小経済にむかう。それがひとつの方向性になるのはまちがいない。戦後の日本は類を見ない経済成長を遂げたが、その背景には人口増加と工業製品の生産力をアップさせるだけの豊富な労働供給力があったからだ。これから起こるのはそれと真逆のことだ。
そのとき日本の都市はどう変わっていくか。それはありていにいえば都市デザインをどう考えるかという問題になる。都市デザインについて考えていたとき、いろいろとヒントをもらった。

日本が生んだ偉大なる経営イノベーター小林一三
鹿島茂
中央公論新社

小林が箕面有馬電気軌道株式会社を購入したところから、阪急鉄道の歴史ははじまる。阪急といえば関西に根強い人気をほこる一大ブランドだが、当時は前途が危ぶまれるほどのボロ鉄道だった。重役会を開いたときも誰が損失の負担するかで大揉めしたという。
しかし小林は沿道に住宅経営を考案することで、ボロ鉄道を成功にみちびく。そのとき鍵になったのが人口動態だった。当時は急激にふえる人口にたいして住宅が不足していて、これから増えるであろうファミリー層にたいして、小林は住むところを働くところ、そして移動手段を提供してみせた。小林が読みといた人口動態はいかなるものだったのか、そのことをかんがえながら読むと、なおいっそうおもしろい。

人口減少社会のデザイン
広井良典
東洋経済

日本はこれから人口減少社会にむかう。消費が縮小するのはおろか、インフラやコミュニティの存亡も危ぶまれるというから、どんな社会になるのか想像もつかない。いずれにせよ人口減少のインパクトによって、我々の生活は大きく変わるのはまちがいない。
にもかかわらず、日本社会はいまだ拡大経済の遺産をひきずったままだ。具体的な対策も出てこなければ、次世代のビジョンを描けずにいる。もし小林一三が生きていたなら、この人口減少期をどう対応するのだろうか。そのことを想像しながら読んでみるのも一興だろう。

僕らの社会主義
国分浩一郎 山﨑亮
ちくま新書

小平の都道問題に対し行政に噛みついた国分浩一郎と、建築家でいながらコミュニティにめざめた山﨑亮が、社会のあるべき姿について語っている。社会主義というタイトルを目にしたとき、おもわず眉を顰めてしまった。だが、ふたりの根底にある思考をよむと納得できるものがある。政府でも景気でも、行政でもない。自分たちの生活をじぶんたちの手でよくしたい。そのためにどうしたらいいのかという問題意識がこの本のあちこちに見受けられる。
社会をよくするには足元から。だから僕らの社会主義なのだ。

ぼくらのリノベーションまちづくり
嶋田洋平
日経BP社

北九州と雑司ヶ谷でリノベーションを手がけ、積極的にまちづくりをおこなった事例が紹介されている。空き家とシャッター街にどうして人があつまるようになったのか?たまたまうまくいったレア事例とおもってよんだが、そんなことはなかった。潰れそうな街の空白地帯やスモールエリアに次々と人がやってきて活動するさまをみると、案外日本もまだ捨てたもんじゃないなとおもう。自分たちの生活をじぶんたちの手でよくしたいというニーズは確実にあるし、これからの社会課題解決の鍵となるのは、住民がどう使いたいかというニーズなのかもしれない。
時代やスケールはちがうものの、著者が主催するらいおん事務所のリノベーション事例は、小林一三がめざしたものとよく重なる。

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