小説 書評

仮面病棟│知念 実希人

「仮面病棟」
知念 実希人
実業之日本社文庫

先輩にたのまれて当直のバイトを代わり、療養型病院にやってきた速水は、病院ジャックに巻きこまれます。

「すみません、ちょっと来ていただきたいんですけど」

当直室でくつろいでいたとき、速水は、内線で呼ばれます。急いで一階にいくと、外来待合室の隅に、男が立っています。男はラバー製のピエロのマスクをしていて、あきらかに不審人物。そして、ピエロのすぐそばには若い女がたおれ、女は腹部から夥しい血を流していました。

突如あらわれたピエロは、コンビニに押しいり、発砲して金を奪った強盗犯でした。ピエロは、通行人の女を人質にとって逃げようとしたのですが、女性に抵抗され、おもわず拳銃で撃ったのです。

■ピエロの要求

殺人犯になるのを避けたいピエロは、「その女が死んだら、お前ら全員ぶっ殺してやるからな」といい、回転式拳銃をつきつけます。速水は云われるままに女性を手術室にはこび、クーパーで服を切り裂いて、傷口を処置。女性の命をすくいます。

無事、処置を終えると、ピエロは、自分を匿うよう要求してきます。

院長もふくめて話あった結果、患者の安全を確保し、朝になったらピエロが出て行くという条件で、その要求を受けいれます。

速水は、当初、患者の安全を最優先にしたい院長の指示に従っていたものの、しだいに院長の行動に違和感をおぼえます。院長は警察への連絡を避けるため、全員の携帯電話を回収し、また固定電話のコードを切断していました。徹底して、外部との連絡手段を遮断する行動は、犯人に利するものでした。

不審な点は、それだけではありません。ここは療養型病院にも関わらず、その手術室は、大学病院並の設備が整っていて、なんらかの意図をもって外科手術がおこなわれているのは明白です。

さらに、速水が患者の見回りをするといったとき、院長はあっさりその申し出を退けます。それはあたかも速水が、病院内をうろつくのを嫌っているかのようでした。

■謎のメモ

そんな折、うめき声がきこえ病室に駆けつけると、速水は、地面に倒れている男を見つけます。男の左脇腹には手術痕があり、その縫合糸が何者かによって切られていました。状況が整理できないまま、手がかりを探すべくカルテを調べるていると、速水は、

<三階 神崎浩一 山本真之介 新宿11 明石洋子
 四階 池袋8 河崎13 南康生
 調べろ>

というメモを見つけます。そして、このメモを手がかりに、病院の秘密に近づいていきます。

■ヒロインの救出

話の中盤で、ピエロの犯人がヒロインを連れ、「朝までの時間、俺の相手をしてくれよ」と要求する場面があります。

速水はヒロインを助けるべく、実力行使にでるのですが、あえなく反撃にあい、銃のグリップで殴られ、意識をうしないます。が、それでも諦めることなく、再びピエロに立ちむかい、ヒロインを救出します。ベタな展開ですが、この場面はハラハラして、おもしろかったです。

■バレバレの展開

「仮面病棟」の難点は、伏線がわかりやすいところです。伏線というより、犯人がバレバレです。ヒロインが重傷をおって登場するところも然り、そのあとの速水を励ましたり、恋仲にいたるシーンも然り、要所要所で不自然な絡み方をしてきます。最後のひっくり返しで、ヒロインが登場するのも見えみえです。

そのため、伏線があさく、読み手を騙すところまでいきません。騙されるのをわかったうえで読んでいて、そのうえでお決まりの展開を待っている感じです。

小説としては浅いのですが、ドラマにすると、ちょうどいい浅さかもしれません。医療系だし、アクションもあるし、ピエロの犯人や悪徳院長など、見栄えのするキャラが揃っています。案外、バチスタの後継になりそうな気がします。

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