小説 書評

恋愛採集士│日野草

「恋愛採集士」
日野草
幻冬舎

歪んだ愛情の果てに、奇妙な捻じれが待ちうけている。それが「恋愛採集士」の魅力です。

短編には、十一歳年上の女性と、さくらの下で愛を誓った遠いむかしの思い出や、恋人をとっかえひっかえするやり手の経営者が、妻にふさわしい女性をテストする話、はたまた、ずっと昔に失った彼女との思い出にひたり、一年に一度、代理彼女とデートする話が綴られています。どの話も、<状況/シチュエーション>がひどく歪んでいます。

過去の恋愛が歪なかたちを作りはじめ、登場人物の感情が高まり、それが上昇したところで、物語がいっきに解体されます。それまで読み進めていた物語が、まったく別の顔をのぞかせる展開は圧巻で、「恋愛採集士」は、どんでん返しの効いた良質なミステリィとなっています。

■恋愛便利屋

歪んだ恋愛をストーリーとともに導くのは恋愛専門の便利屋で、彼女は、諦めきれない恋や忘れられない愛の後始末を仕事としています。恋愛観察にとりつかれた彼女は、忘れられない恋愛の断片を見つけだし、救われない想いを届けるために、大がかりなトリックを仕掛けます。

わだかまった感情を解消する過程で、恋愛専門の便利屋は、恋愛の核心をつぶさに観察し、人の愛し方がわからないという自分自身の喪失を埋めていきます。

恋愛フェチの便利屋の詳細は語られていないものの、よくよく考えたら、あきらめきれない他人の恋愛を見届けたいなんて、すごいデバガメだなと思います。そして、他人の恋愛をながめる恋愛便利屋が異常なら、殺意に似た恋愛感情を、長年枯らすことなく秘めたつづけた依頼人もまた異常といえます。この物語に奇妙なかたちを与えている最大の要因は、やはり、恋愛に対する異常な執着だとおもいます。

■異常とカタルシス

現実なら、こんな展開は到底ありえません。個人でやるには仕掛けが大掛かりだし、仕事でやるにも、失敗したときのリスクが大きすぎます。いったいどういう設定なのだろうと、首を傾げたくなるものも、なかにはあります。

とくに、<登場人物/キャラクター>が、過去の愛情にこだわる姿は異常です。

しかし、愛情へのこだわりが異常であればあるほど、終盤のトリックが映えます。解体されたときのカタルシスは、恋愛感情の残滓や叶わない願いの儚さ、美しさとあいまって、とても胸にひびきます。

■恋愛とミステリィ

「ヴァン・ダインの二十則」によれば、ミステリィにラブロマンスを持ちこむのは無用とされます。本格推理は、あくまでトリックで勝負すべきで、そこに恋愛要素を持ちこむのは邪道なのです。しかし、複雑に絡まった恋愛なるものは、案外、ミステリィに似ています。いいえ、ひょっとしたら、恋愛こそがミステリィそのもの───かもしれません。

騙しだまされあう男女が、異常な愛情を抱えながらそれでも惹かれあうのだとしたら、恋愛とミステリィが相似をなすのも、ある意味、当然といえるでしょう。

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