『百舌の叫ぶ夜』
逢坂剛
集英社文庫
公安刑事の倉木は、爆弾テロによって妻を亡くし、犯人を追っていました。
爆弾テロの犯人と目される新谷は、石川県・珠洲の孤狼岬で記憶喪失となってみつかり、一匹狼の倉木は無茶な捜査をかさねながら、背景/バックにいる明豊興業、そして新谷へ接近します。
■プロットの違和感
「百舌の叫ぶ夜」を読みすすめていくと、あきらかに違和感がでてきます。冒頭から話が噛みあわず、登場人物も時間軸もズレるのです。部分的に合っているのに、部分的にずれている。デジャヴが繰りかえされ、どうにも読みにくい感じがします。
そのため犯人の情報があきらかになるわりに、犯人にたどりつかないという不思議な感覚───フラストレーションが溜まります。
■精巧なプロット
しかし、このフラストレーションが、後々、鍵になってきます。終盤になり全体像がわかると、今まで読んでいたストーリーがみごとに解体され、真相が明らかになるのです。
あらためてストーリー全体をながめると、ビデオの巻き戻しをみるような絶妙な仕掛けになっています。プロットを縦横無尽に駆使したつくりは驚愕の一言。こんな精巧なプロットは見たことありません。
警察小説としては最近めったに見ないタイプで、なかなか斬新でした。というか、むしろ警察小説としては、こっちが原点なのですが。プロットを眺めるだけでも一読の価値はあります。