『宇宙は何でできているのか』
村山斉
幻冬舎新書
素粒子から宇宙の大きさを考える本です。極小から極大をながめるのが特徴になっています。これを読むと、いっけん別々にみえる極小と極大の世界が、ひとつの輪を形成しつながってみえます。しかも素粒子と宇宙の研究は、なにかを仲介したり、回りまわってつながる感じはまったくなくて、その研究結果がダイレクトに影響しあっているのです。それが極小ー極大という相反するジャンルなのに。
スケール感
極小極大という安易な言葉だけではそのスケールがイメージできないのですが、たとえていうなら人間に身長は一メートルから二メートルの範囲で、その大きさは10の0乗のレベルにあります。
また富士山は3,776メートルで千の位で10の3乗メートルであり、地球の直径は1万2000キロメートルであることから、桁数は10の7乗となります。これを基準にして宇宙の大きさを測るなら、銀河団の大きさは10の27乗、同様に素粒子の世界は10の-35乗となります。どちらも途方もない桁です。10の-35乗って。微小すぎて、想像するのも困難です。話を聞いているだけでSFに思えてきます。
膨張と素粒子
なぜ極小と極大が密接に関係するかというと、現在、宇宙は膨張していることが判っていて、膨張を前提に宇宙の歴史を遡れば、そのサイズはどんどん小さくなっていきます。そしてビックバン直後の原始の宇宙は、いってみればそれ以上膨張を遡れない状態、即ちそれ以上小さくできない大きさになると予想されます。
そして「それ以上小さくできないほどの大きさ」というのが、素粒子が得意とする世界なのです。素粒子の発展が、宇宙の解明ひいては宇宙の大きさの解明につながるというのは、まさにこの部分を指しています。
宇宙の大問題
また素粒子と宇宙では、暗黒物質の問題が深く関わってきます。
暗黒物質とはなんぞや。
最新の宇宙の観測結果によると、すべての星のエネルギーを合計しても、全宇宙の0.5%にしかならないことがわかっています。仮に、これにニュートリノを加えたとしても1%にしかならず、それどころか星やガスなど宇宙にあるすべての原子をかきあつめても4.4%にしかなりません。宇宙と素粒子では、エネルギーの総和がまるで足りません。とどのつまり、科学が発達した現代においてさえ、原子以外のものが96%も存在するのに、それがなんなのか まったくわかっていないのです。これはなかなかの難題です。
で───宇宙の大部分を占めるであろうよくわからない物質のことを、科学者たちは、暗黒物質とか暗黒エネルギーと呼んでいます。にしても、暗黒物質って。ダースベーダーじゃないんだから。なんだか本当にSFめいてきました。
ちなみに素粒子の世界にはクオークという物質があって、これは陽子と中性子を構成する物質───要は陽子と中性子より小さい粒───なのですが、実はこのクォークは、ジェームス・ジョイスという作家の「フィネガンズ・ウェイク」からきていて、科学的にはまったく意味のないネーミングになっています。
もしも、クォークを見つけたのが日本人でなおかつ熱狂的な木下優樹菜のファンだったら、クォーターは、チョリースになっていたかもしれません。そんなレベルです。素粒子のネーミングは意外といい加減です。
宇宙の未来
最新の研究成果が、あらたな事実ではなくあらたな謎を提示している、このことはとても興味深いとおもいます。暗黒物質の問題はたんに科学の限界や未発達さをしめすのではなく、素粒子物理学の発展により、新しいフロンティアに差し掛かったとみるべきです。未解決の謎がのこっているのではなく、広大な未開拓地がひろがっている。
研究が進むにつれ謎が解明されるかというと、ことはそう単純ではなく、研究が進めばすすむほど謎が深まり、未知の領域や混沌が広がっていく。これが科学の醍醐味です。これから様々な新発見が出てくるかと思うと、想像が掻き立てられます。