小説 書評

神の時空 伏見稲荷の轟雷│高田崇史

神の時空 伏見稲荷の轟雷
高田崇史
講談社ノベルス

今回のテーマは伏見稲荷です。

伏見稲荷は全国に三万ある稲荷社の総本宮にして、宇迦之御魂大神をはじめ、佐田彦大神、大宮能売大神、田中大神を祀った大社です。京都・東山連峰の最南端に位置する稲荷山にあり、正月の三が日だけで参拝者が約二百八十万人に達するなど、明治神宮に次ぐ数を誇っています。

そして伏見稲荷といえば、云わずと知れた千本鳥居。千本鳥居は人々の篤い信仰を受けて奉納され、その数は八百から九百に及びます。鳥居の連なる参道は荘厳で、神域へつながる朱いトンネルとなっています。

そんな千本鳥居で、首を吊った遺体が二体見つかります。警察は頸部の索条痕から、紐のようなもので首を絞めた後、遺体を鳥居に吊るしたものと断定、殺人の線で捜査を進めます。

なんだかんだで、高村一派が伏見稲荷の怨霊を解放せんと動きだしたところ、辻曲家の人々が、異変を察知し、稲荷神の怒りを鎮めようとやってきます。しかし稲荷神から「何一つ知らぬ輩は、山を降りろ」といわれ、かえって怒りを買うはめに。落雷と地鳴りに襲われ、怨霊はいっそう暴れる事態となり、窮地に陥ります。

困り果てた一向は、歴史作家であり幽霊の火地に助けをもとめます。そして火地の講義のもと、一向は、稲荷神の謎にせまっていきます。

■稲の神?

稲荷は、ずっと稲に関する神ではないか? と思っていました。食物神というイメージがあり、疑いもせずそのままの字面で読んでいたのです。

事実、稲と雷は古くから関係があります。雷が多いとその年は豊作になるといわれ、雷のことを稲光と呼ぶのは、米との関係からきています。稲が良くとれる光という意味で、稲光なのです。稲妻も同様の意味をもっています。

おいなりさんも然りで、
”稲荷神と狐は、こうまで縁が深い。
「大陸渡来の秦氏が山城平野を開拓するに際して、霊性をもった狼(または山犬)や狐に接し、それを馴化していった記憶が神格化した」ために「やがて狼がしだいに絶滅したあとに、稲の害獣である鼠の、天敵の狐のみが稲作の益獣として、象徴化されたもの」”
なんだとか。

ここでも狐は稲につながります。
ともすれば、
稲荷―豊穣
稲荷―キツネ
のつながりは、ほとんど公式化されています。稲荷が豊作の神であり食物神であるというのは、疑うべくもありません。

ということで、稲荷と製鉄の関係は、最後まで思いつきませんでした。製鉄で紐解かれた稲荷の正体は衝撃です。稲荷の暗号がすらすらと解けていく様は、真実はこれしかないのでは? と思えるほど説得力があります。

にしても、稲荷───いなりですか。
そのまんまですね。

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