小説 書評

神の時空 三輪の山祇│高田嵩史

「神の時空 三輪の山祇」
高田嵩史
講談社ノベルス

怨霊を鎮護する特別タスクチーム───。それが辻曲家の人々です。三輪山に封じられた怨霊を解放すべく、高村一派が暗躍し、辻曲家の人々がその阻止に乗り出します。

謎の一派

高村皇率いる謎の一派により三輪山山頂にある高宮神社が破壊されると、奥津磐座の注連縄が切られて結界がゆるみ、三輪山の怨霊が暴れはじめます。頂上付近の天候はくずれ、濃霧が発生し、あたりは不穏な空気につつまれます。

異変に気付いた辻曲家の次女・彩音は、祝詞を献上し、三輪山に祀られる大国主命の鎮魂を試みるものの、肝心の大国主命はこれにまったく反応せず、ひょっとしてここにいるのは大国主命ではないのでは───と考えます。不審をいだいた彩音は、陽一に、歴史作家の火地から三輪山の神の正体について教えてもらうよう頼みます。

陽一が恐るおそる火地を訪れると、火地はジロッと目を剥き不快感をあらわにし、「自分で調べろ」「頭を使え」「儂の邪魔をするな」と罵倒します。陽一がなんとか粘ると火地は渋々折れ、大神神社と三輪山、大国主命にまつわる歴史について語りはじめます。

三輪山の蛇

三輪山ときけば、真っ先に思いつくのが三輪山伝説です。三輪山の麓に美しい娘がいて、夜な夜な姫のもとに若い男が訪れ、娘は男の子どもを身ごもります。男は夜明けとともに帰ってしまうため、どこの誰ともわかりません。そこで父母が素性をたしかめようと、男の着物の裾に糸を刺すよう、娘に命じます。翌朝、その糸をたどっていくと、糸は三輪山までつづいていて、娘のもとにやってきたのが 三輪山の蛇 であることがわかります。

三輪山に蛇がいる───。その云伝えは、たしかに古来からありました。蛇は龍神をさし、龍神は製鉄集団を意味することから、三輪山が製鉄集団と関わるのは明らか。その流れで大国主命が登場するのはほぼ定石です。 丹塗矢伝説もそうですが、丹は朱色をさし、鉄の原料である朱砂につながります。ここでも製鉄との関わりが見られます。さらに蛇は古語でカガといい、カガは変化してカミとなり、蛇は神の化身と考えられることから、三輪山に封印されているのは大国主命とみて確実です。

が、ここから流れが一変。
彩音が祝詞をとなえた件でもあきらかなように、三輪山にいるのは大国主命ではありません。これだけ製鉄―大国主命につながりがありながら、三輪山に祀られているのは別の神なのです。それは三輪山の拝殿が、そのまま三輪山をおがむようにはできていないことからも明らかで、大神神社の拝殿は、意図的に頂上を避けた配置となっています。

三輪山は神体山ではない──。

だとしたら、そこに祀られているのは誰なのか? ここに至って三輪山の謎はクライマックスをむかえます。

-小説, 書評