文脈でよむ

「象徴天皇」を考える

「東京プリズン」
赤坂真理
河出書房新社

主人公が、アメリカの地で天皇降伏について討論するお話しです。天皇の発する言葉の主体がIなのかPeapleなのか論じていて、そこに興味をおぼえました。天皇の発する言葉の主体は、実にあいまいです。しかしそのあいまいさに、「象徴天皇」を考えるヒントが隠されているようにおもいます。

「昭和」という国家
司馬遼太郎
NHKブックス

司馬遼太郎は、「燃えよ剣」「竜馬がゆく」「坂の上の雲」を書いた歴史小説家です。しかし歴史小説家でありながら、モノの見方が他の作家とずいぶん異なっています。その根底には"なぜ日本は戦争にいたったのか?"という後悔の念があり、"昭和前期は異常な時代だった"との認識があるからです。

司馬遼太郎はよく時代を縦にたてに紡く傾向があり、その系譜的な考察は、どこか昭和にむけた道しるべを探しているかのようです。

これを読んでいると、明治維新──新政府──日露戦争──昭和前期をながめることになります。国家成立の過程で、いかに天皇が政治組みこまれていったのか? そのことがよくわかります。
新政府のための天皇。
戦争のための天皇。
象徴のための天皇。
これらがどれも同じ役割をはたしているのはなかなか興味深いところです。

天皇の「生前退位」の真実
高森明勅
幻冬舎新書

憲法、皇室典範、天皇陛下のビデオメッセージでのご発言を、事細かに解説しています。モノ言いが偉そうで気に食わないのですが、それを除けば良い本だとおもいます。

これを読むとあまり知られていない公務の実態がわかります。「象徴天皇」はあくまで象徴なのですが、その象徴を遂行するには行為性が欠かせないのです。高齢を理由に仕事を減らすと、行為が損なわれ、それだけ象徴がうしなわれることになります。となれば、やはり「生前退位」しか方法はないのかなと思います。

-文脈でよむ