小説 書評

遠野物語remix │京極夏彦 柳田國男

『遠野物語remix』
京極夏彦 柳田國男
角川学芸出版

ずっと遠野物語を読みたいと思っていて、やっとこの機会に読むことができました。京極夏彦、ありがとう。

柳田翁の代表作・遠野物語の存在を知りつつ読めずにいて、かつその間ずっと疑問だったのは、なぜ遠野なのか?  ということでした。わざわざ遠野じゃなくても、日本のどこでもいいはずなのに──。その疑問がずっとつきまとっていたのです。が、この本を読んで、その理由の一端がわかりました。

地名の魅力


本書の内容は、どこにでもあるような日本の昔話をあつめた逸話集です。さして珍しいものではありません。ただしこの凡庸ともおもえる昔話の逸話集に「遠野」という地域がくわわっただけで俄然、おもしろさが増してきます

"遠野郷は、土淵、附馬牛、松崎、青笹、上郷、小友、綾織、鱒沢、宮守、達曽部の十ヶ村と、遠野町から成る。"

"早池峰山は御影石の採れる山である。
この山の小国村に向かう側に、安倍が城という名の岩がある。"

実在する地名だったり、山だったり、川だったり。当時住んでいた村人や庄屋、山人だったりが登場するとこで、平凡な昔話が、一味もふた味もちがって見えてきます。いってみれば物語を、身近に感じるようになるのです。遠野物語には実名絡みのこまかな設定があり、それが読む者の気持ちを自然と引きこみます。

遠野物語は永久に不滅です

遠野という限定された地域にこれだけおもしろい話が転がっているのも驚きなら、逸話を飽きもせず拾いあつめた柳田翁の執念もまた驚きでした。そして、それが遠野物語を書こうとおもった動機だったのかもしれません。

なぜ遠野だったのか。
それは、遠野でなければならないから。
柳田翁は、笑ってそうこたえるでしょう。

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