『仕事で数字を使うって、こういうことです』
深沢真太郎
日本実業出版社
数字を経営に役立てようというビジネス書です。そしてビジネス書でありながら小説の形式をとっています。しっかりとストーリーの沿って展開するかたちは、ビジネス書のなかでは変わり種です。
柴崎智香は、アパレル会社を経営する佐野から、若手社員に数字の使い方を教えてほしいと請われ、ヘッドハンティングされます。そして「WIXY」というブランドを掲げる中堅アパレルにやってきます。
理学部数学科出身という柴崎は、今どきめずらしい数学女子で、すこし話をしただけで数字が飛び交うほどの理系ぽい性格です。仕事は有能なものの、物事を数字で判断するため協調性に欠け、周囲からは完全に浮いています。
そんな柴崎と衝突するのが、若手社員の期待を背負う次世代エース 木村です。こよなくファッションを愛する木村は、若手幹部でありながら、見た目は完全にチャラ男。「ファッションの世界は直感と経験とセンスの高い人間が物事を決めていく」とみずからのセンスを疑おうともしません。いうなれば直観の信奉者 。
水と油
当然のように、木村は、数学ガール柴崎とまったくそりが合いません。ミーティングのたびにはげしい口論となり、営業会議があればなにかと数字を振りかざす柴崎に、木村は食ってかかり、対立は募るばかり。社内は険悪ムード一色です。
柴崎は柴崎で、木村の反論などものともしません。つねに理路整然と反論し、まったくぶれないのです。そして苛立つ木村を後目に、数字とその背景をあぶりだし、経営における数字の扱い方をバカでもわかるように諭していきます。
数学ガール
この本の魅力は、数学ガール柴崎です。木村が直観理論にもとづいて発言するたびに「ダメですね」とばっさり切って捨てます。その様は、じつに爽快です。
経営における数字を模範的に扱い、ビジネス書の役目をきちんと果たしながら、ストーリー仕立てで読み手にも配慮しています。ストーリーしっかりお約束がくみこまれているあたり、作者のこだわりを感じます。ベタは否めませんが、お約束があるせいでちゃんと起伏がついています。
数字をこえて
印象にのこったのは、最後に木村と柴崎が和解する場面です。顔もみたくないほど柴崎を嫌っていた木村が、ラストに来て「ウチの製品の着て、仕事をしてくれないか」と頼みます。それは対立していた柴崎を、おなじ会社の仲間として認めた瞬間です。この一言で対立は氷解し、ふたりは認めあう間柄となります。
お約束といえば、これほどわかりやすいお約束もありません。安いストーリーとわかっていながら、ラストの場面ではほろりとなります。
数字をつかって経営するのはなんのためなのか? と問われれば経営を安定させるためと答えるでしょう。ありていにいえば、会社を潰さないためです。ひとつの判断が会社を窮地に追いこむ事例は腐るほどあり、それほど判断というのはむずかしかいものだったりします。会社をつぶさないためには、数字で判断して確率をあげるしかありません。
この本が貴重だなとおもうのは、数字を扱っていながら、数字をこえたところにある経営の本質に言及しているところです。それが木村のいう「ウチの製品の着て、仕事をしてくれないか」という台詞にあらわれています。
青い水平線が
余談ですが、キャラの立ったふたりの名前が、とても気になりました。
柴崎 → 柴咲コウ
木村 → 木村拓哉
にみえるのは、穿ちすぎでしょうか。読んでいて『GoodLuck』か! とツッコミそうになりました。