『ジグβは神ですか』
森博嗣
講談社ノベルス
創作活動に打ち込む人たちがあつまった芸術村、そのコテージで殺人事件がおこります。
殺されたのは若い女性。被害者は裸のままラップ包まれ、棺に納められていました。いうなれば、ぐるぐるラップ巻き殺人です。これはなにかの見立てなのか? 異常な殺人に、芸術村は騒然となります。
と、ここで問題が。
芸術村は周囲を柵でおおわれ外から人が侵入できないようになっていて、犯人はどのようにして芸術村に侵入したのか? という謎が浮上します。
話がすすむうちに、さる宗教団体が芸術村を支援していたことが判明し、その背後に真賀田四季の影が見え隠れしはじめるのですが、実態は杳として知れません。異常な犯罪と犯人の意図、背後でうごめく組織の目的はなんなのか?
てな感じで話が展開するかと思いきや、実はそのように展開しないのが、このシリーズのもどかしいところです。
派手な事件はおこるものの、碌に捜査もおこなわれず探偵も確たる証拠を掴まず、解決しないまま、四季信者一派の仕事か? みたいな背景だけ臭わされておわります。事件はおこるのに、推理はなかば。解決編もおこなわれません。もちろん大団円なんてありません。
このシリーズの特徴は、きわめて影の薄い主人公の海月くんです。海月くんは無口かつ、あまり行動せず、かといって、安楽椅子探偵よろしく推理をめぐらすこともありません。時折、深遠なサジェスションは示すものの、事件の解決にはなんら寄与しないところが、斬新といえば斬新。まったくもって特異な探偵です。いえ、そもそも探偵と呼ぶこと自体ためらわれます。
いったいなんなんでしょう、この作品は。ミステリィを模した猟奇的な殺人を、キャッチコピーにつかっただけじゃないか。なんてことのない物語をそれらしく仕立てやがって。それとも四季外伝のつもりなのか? 深読みすればするほど、首をかしげたくなります。
でも、シリーズで出されると買っちゃうから、不思議です。ときどき出てくる西之園萌絵と犀川先生を読みたくなるんです。どうしても。