小説 書評

東京プリズン│赤坂真理  (前編)

『東京プリズン』
赤坂真理
河出書房新社

高校生のマリは、親元をはなれ、アメリカのメイン州に留学していました。成績優秀とはいえないものの、友だちもできて高校生活を楽しんでいたマリに、ある日、転機がおとずれます。マリは社会科学のスペンサー先生から呼び出しを受け、単位と引き換えに、日本の研究について発表をするよう命じられるのです。能や歌舞伎について発表すればいいのかな。
安易にそうかんがえていたところ、スペンサー先生はまったくべつの研究テーマを言い渡してきました。日本の研究――。それは真珠湾攻撃から天皇降伏までの研究して発表せよというものでした。天皇降伏。エンペラー・サレンダー。日本人でも消化しきれずにうやむやにしていた天皇の戦争責任を、マリは異国の地で背負うことになります。 

マリは天皇降伏に調べはじめます。母に電話したり、図書館で資料をあさり、研究発表の準備をすすめていきます。あるとき図書館にきたマリは、ポツダム宣言の受諾の一文に触れます。そこには、

「朕ハ帝国政府ヲシテ米英支蘇四国ニ対シ其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ」

と書かれています。マリは違和感をおぼえます。なんだろう、この奇妙な感じは。それもそのはず、降伏宣言に等しいポツダム宣言の受諾には、連合国に降伏するとは一言も宣していないのですから。降伏すらなく、ましてやポツダム宣言を受諾するとすら述べていない。この文章はいったいなにを意味するのか。 ここに書かれている内容は、天皇が政府に対し、ポツダム宣言を受諾するようアメリカ、イギリス、中国、ソ連に伝えてくれと命じた、ということを指しているにすぎません。せいぜい読み取っても、政府に対し決断をうながしたといったところでしょうか。すくなくとも聖断といわれるポツダム宣言の受託に際しても、天皇は国家の意思決定期間としての政府を尊重しています。というか、聖断により終戦したといわれる往時ですら、実際のところどれくらい天皇が関与していたのかは定かではないのです。結局のところ、最後に政府の後押しをしただけなのかもしれません。 

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