小説以外のもの 書評

上海狂想曲│高崎隆治

『上海狂想曲』
高崎隆治
文藝春秋

1937年7月くらいからでしょうか。盧溝橋事件のあとの上海の様子が詳細に記されています。
日中戦争後、太平洋戦争前くらいです。戦争の足音が徐々に近づいてくるような時代で、 

”たしかに、政治状況は、一般国民の目や耳では捉えられない形で徐々に変化し、軍国主義体制が次第に強められていたのは事実だが、国民の多くはそういう微妙な、時には露骨な変化から、本能的に目をそらし、いまの平和がこのままいつまでもつづいて欲しいと願っていた。”


という当時の国民の実態がつづられています。が、そんな願いもむなしく、盧溝橋事件後、上海でも戦端が開かれることになります。
経緯はこうです。

戦争への空気

”昭和一二年七月七日、北京近郊で起きた盧溝橋事件に端を発した日中両軍の衝突は、徐々に本格的な戦闘へと拡大することになります。八月に入ると日本の陸軍部隊は北平・天津の両市を制圧(北支事変)する。交戦は北支だけにとどまらず、上海でも海軍陸戦隊と中国軍との間で衝突が生じることになります。上海には盧溝橋事件以来、続々と中国正規軍が配置についていて、日本側も第三艦隊が戦闘の準備をすすめ、一触即発の事態となっていたのです。”


いわゆる第二次上海事変ですが、このときの日中両軍の様子やら上海の街並みが臨場感満点。読んでてすごくおもしろいです。兵士が握り飯を食べようとすると、ご飯にハエがたかって真っ黒になるとか、上海の川にうかぶ兵士の死体をうなぎがばくばく啄いて食うとか、すごくリアルです。うなぎがそんな貪欲な魚だったとはつゆ知らず、読んでて胸糞悪くなりました。

後半は失速

ただ後半の特派員の話になると、ひどくつまらなくなります。木村毅が出てきたあたりで途端に白けてきます。木村毅は、民間特派員ですので軍人とはまったくちがい、どうもお気楽な物見遊山的な感じがするのです。
案外、戦時中も「民」は他人事だったのかもしれません。

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