小説 書評

写楽 閉じた国の幻│島田荘司

『写楽 閉じた国の幻』
島田荘司
新潮社

写楽さがしの歴史ミステリィ。六本木の回転扉事故でわが子を失った大学の教授が、自らの研究テーマである写楽にのめり込み、写楽は外国人ではなかったか?と大胆な持論を展開するお話しです。広大な構想と強引な結びつけ。それをいかんなく物語に昇華するあたりは、さすが島田荘司。力業が冴えています。 

写楽=外国人絵師説は、あまりに状況証拠すぎて、説得力に欠けるなあというのが正直な印象です。ですが、それにもまして作品の器を考えればその大きさたるや圧巻で、些事にこだわることなく、写楽に正面切って挑んだ堂々たる態度には敬意を払うべきでしょう。 

浮世絵

写楽さがしについてまわる難解さは、絵と浮世絵のちがいにあります。浮世絵は純粋な絵ではなく版画であり、絵を描く人、木に絵を写す人、彫る人、刷る人というように一枚の絵に対し、何人もの人が関わります。

つまり、多人数がかかわる工場の製造とおなじ。なので、刷りあがった浮世絵の特徴が──それは手のかたちや耳、鼻のかたちだったりするわけですが──それが絵師の特徴なのか、それとも彫師の特徴なのかが判然としません。

そんななかにあって写楽の浮世絵が革命的だったのは、写楽の絵が力みの瞬間をとらえているという説です。美人画が静止画だとするなら、写楽のそれは、歌舞伎役者の動きを瞬間瞬間でとらえようとしています。つまり、写楽の浮世絵は動的静止画なわけです。動的静止画という特徴ひとつとっても、写楽の浮世絵は異質であることがわかります。写楽うんちくが満載の一冊、読みごたえありますよ。 

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