小説 書評

盤上のアルファ

『盤上のアルファ』
塩田武士
講談社

あらすじ

かなり熱い将棋の話です。新聞記者の花形・県警本部付だった秋葉隼介は、ある日、文化部に配属され、将棋観戦記者になります。そして、ひょんなことから秋葉は、真田信繁という男に出会います。真田は三三才。仕事も家族はもちろん、先の見通しはおろか、頼るべき友人さえもいないという崖っぷちな人です。見た目もタンクトップを着た丸坊主のおっさん。見るからにガサツ。ただし、将棋だけは滅法強い。
小料理屋で真田に絡らまれた秋葉は、翌日、自宅マンションで怪しげな人影を見つけます。思わず足を止めたそのとき、
「秋葉か?」
野太い声が響きます。丸坊主に髭面、姿を現わしたのは真田でした。
真田は奨励会の編入試験を受けるからこの家に住みたいと宣言し、秋葉の拒否を振り切って、むりやり同居にこぎつけます。

かくして真田の闘いが始まります。奨励会三段編入制度はアマチュア棋士のために奨励会の門戸を開いたもので、アマ棋戦で優勝し、なおかつ編入試験に八戦中六勝しないと三段への道は開けないという難関、実に狭き門です。想像を絶するほど険しい道のりにも関わらず、追い込まれた真田に残された道は将棋しかありませんでした。
おっさんが人生を賭けて捨て身の勝負に打って出る。
それがこの『盤上のアルファ』という物語です。

同居モノ

ストーリーの定番に同居モノがあって、これはめぞん一刻にはじまり、ひとつ屋根の下やらランチの女王など、ドラマではよくみかける定番中の定番です。

 同居モノの見どころはなんといっても最初のきっかけで、「最初に衝突ありき」が鉄則だとするなら、最初の衝突が激しくなればなるほどおもしろくなります。燦然と輝く同居モノナンバーワンは、やっぱり『ロングバケーション』でしょう。木村拓哉が扮するピアニスト・瀬名のもとに花嫁姿の山口智子が押し掛けてきます。見るからに切羽詰った花嫁は、瀬名にむかって花婿はどこにいったと問いただします。結婚式当日に、花婿に逃げられた花嫁が押しかけてくるという場面です。ただただ面食らいますが、すごくおもしろい。
──これを超える同居モノはないだろう。

ずっとそう思ってました。
なのに、ロングバケーションよりおもしろいファーストコンタクトがあったのです。それが『盤上のアルファ』です。真田が同居を主張する場面は、みじめで意地汚く、押しかけられた秋葉には同情を禁じ得ません。誰が好きこのんで、丸坊主のオッサンと同居するというのでしょう。
この同居モノ、史上最低です。

-小説, 書評