『満州の情報基地 ハルビン学院』
芳地隆之
新潮社
満州とは、いわゆる中国の東北部で現在の遼寧省、吉林省、黒竜江省と内モンゴル自治区の東部にあたります。旅順、大連、瀋陽、新京といった都市が浮かびますが、なかでもハルビンは異質都市です。
”駅頭に立った島津の目に、中国人馬車の客引きや、ブロンド髪で、とび色の瞳をしたロシア人たちの姿が飛び込んできた。北満の四月。春の訪れにはまだ早い。ロシア人のなかには毛皮の帽子を被り、革の長靴(ブーツ)を履いている者もいる。中国人は綿を詰めた座布団のような服に身を包み、足には古びた布靴という出で立ちだ。中国語が飛び交う喧騒のなかを、トルストイの小説の登場人物たちが通り過ぎていくようだった。”
ハルビンは極めてロシア色のつよい都市で、ごった返しのなかに日本人も中国人もロシア人も住んでいました。一風変わった国際都市。それが当時のハルビンです。
学生たち
”六時四十分から十分で黒パンと紅茶の朝食を済ませると、寮から三キロメートル離れた学院へ七時二十分までに登校しなければならない。八時から授業開始である。午前中はすべてロシア語授業に費やされる。ロシア人教師はポダジョフ氏、パノーヴァ女史、ポドスターヴィナ女史らだ。”
ロシアに渡った学生を中心に、町並みや駅の風景、ロシア語学学校での出来事が語られ、
”そのポドスターヴィナが授業中、教卓の上に腰をかけて長い脚を組む姿に、学院生はドキドキした。しかし、そんなときめきは最初だけ。新入生は彼女らネイティブ教授のロシア語授業の強烈な洗礼を受ける。”
と授業はかなりスパルタだったようです。戦中、そして敗戦のハルビンの様子や戦後の民間外交として大陸通商の様子が克明に記されるなど、当時のハルビンの様子を眺められるという意味で貴重な一冊です。