『昔話のコスモロジー』
小澤俊夫
講談社学術文庫
昔話の起源
西欧における昔話の特徴は、なんといっても魔法に尽きるでしょう。
たとえば愛情による魔法の解除。みるからに西洋童話といった感じですが、グリム童話「蛙の王子」をはじめ、ヨーロッパの異類婚姻譚においても変身観・動物観が多くみられ、さらにこの変身・動物化に魔術的手続きが必要とされるところが大きな特徴です。
なかには異類婚姻譚に登場する動物は、じつは動物ではなく、魔法をかけられて救済を求めている人間の象徴だという説もあるくらいですから、なかなか深い洞察だと思います。
魔法
西欧と日本の昔話のちがいともいえるこの魔法。
では、魔法の有無はいったい何に起因するのでしょうか? この著作では、昔話はそこで語られている共同体を映すと述べています。 おおざっぱにいうと、日本の自然環境は西洋のそれと比べるととても豊かでそれだけ生活に近いところにあり、魔法的手続きを必要とせずともごく自然に昔話に登場することができると考えているわけです。
ただし、それだとすこしおおざっぱすぎといわざるを得ない。
やはり魔法の有無は、キリスト教に原因があるのでしょう。
キリスト教は、人間から動物に変わるというファンタジーな世界を認めなかったのです。しかしそれだといままで語り継がれていた昔話とそのまま捨てることになり、長く語り継がれてきた異類婚姻譚がキリスト教の世界観になじむための説明体系として「魔法」が必要になってきたのです。
つまり魔法というのは、キリスト教の埒外にあった昔話をその中にとりこんで共存させる変換装置だった、といえるのではないでしょうか。