書評

きまぐれロボット

『きまぐれロボット』
星 新一
角川文庫

ジャンル

得てして──。
SFはとっつきにくいものです。それは世界観が入りにくかったり、独自の設定が理解できなかったり、またはきわめて空想的な世界を文字だけで表現しなければならないという制約の厳しさが災いしています。

しかし星新一はそうではありません。ものすごく読みやすい。
SFといってもソフトSFなのでとても親しみやすく、どの作品も端正な日本語で1000字ほどに纏まっているので至極読みやすかったりします。

また泥棒・発明・宇宙人・ロボットなど、一見素材がバラバラになりがちにもかかわらず、語り口というか作家がもつ視点が変わらないのでいつも同じように読むことができます。この圧倒的な読みやすさは、SFを超えて星新一がひとつのジャンルとなっているかのようです。

キツツキ計画

ちなみに今回のお気に入りはキツツキ計画でした。
泥棒がキツツキがボタンを押すように訓練して、それを町にいっせいに放とうというお話しです。キツツキで町が大混乱に陥っている隙に、泥棒は盗みを働こうと考えるのですが、考える泥棒も奇想天外なら、その防ぎ方もなかなか予想外のものでした。
シャレが効いてて面白い結末です。

作り手からするとショートほどやっかりなものはなく、出だしの方向づけ、終盤手前でひっくり返し、そして流れるようにラストのオチへと導くのはかなりの作業です。しかもそれには字数制限と過酷な制約をともなうのですから、否が応にも骨が折れます。

読み手からすると、短編小説をさらに短くしたものがショートと考えるかもしれませんが、実際は大きく異なります。書きはじめる前に精巧な設計図がなければ、ちゃんとしたショートは書けないのです。もうそれだけで、星新一の偉大さがわかるというもの。

ただ星新一の偉大さはそれだけに留まらず、
 ・SFでよく使われる素材
 ・字数制限 
といった制約条件をもちいれば、どことなく似通った作品になったり展開が予想できそうになりがちなのに、星作品はまるっきり予想がつかないところが素晴らしいと思います。
この切り口の豊富さには、舌を巻きますね。

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