『崑崙遊撃隊』
山田正紀
ハルキ文庫
あらすじ
SF冒険小説です。
昭和初期。魔都・上海から話しが始まります。国際謀略が渦巻く上海では、日本陸軍とつながりを持つ昇日会や青幇といったギャング集団が対立を深めていました。
そんななか、馬喰商人の藤村脇は、上海ギャングの紅幇につかまってしまいます。紅幇は藤村の身柄を青幇に引き渡そうとしていたのですが、それはかつて藤村が昇日会のカネを横領し、青幇の追っ手を振り切って行方をくらましていたことが原因でした。
昇日会の実力者・真木がやってきて身柄を渡されそうになったとき、謎の老人・度会が現れ、藤村は難を逃れます。しかし、渡会は関東軍に関係する人物で、藤村に「崑崙」まで道案内するよう求めてきます。
崑崙──。
それは神の住まう伝説の地であり、藤村にとって、忘れられない因縁の地でもありました。度会の命令によりチームを組むと、藤村はためらいながらも、崑崙にむけて出発します。そしてかの地で『崑崙』で、思いがけない人物に出会うことになるのです。
秘境小説
これは主人公が秘境の地・崑崙をめざすというお話しで、いうなれば秘境小説といったジャンルになるのですが、そのジャンルはすでに失われていていまでは滅多にお目にかかることはありません。そもそも、このジャンルは多岐にわたりいろんな要素を含んでいて、
・スパイ
・SF
・ハードボイルド
・冒険
といったジャンルを網羅していることからみても、軽く二作品は作れそうなアイデアがつまっています。
本作では、冒頭から藤村が上海を旅立つまでが正当なハードボイルドで、道中に砂漠を横断したり巨大蛸や巨大蜂に襲われたり敵に遭遇するあたりが冒険小説となり、最後に秘境に至ったところでSF小説が前面に出てきます。縦横無尽にジャンルをミックスしたうえで、いかにバランスをとるか。
なかなか芸が細かいです。
なぜ多岐にわたるジャンルを、ひとつにまとめることができるのか?
その秘訣は緻密な設定にあるのではないかと思います。
.例えば、昭和7年に日華両軍の衝突した『上海事変』が物語の設定として登場し、一方で崑崙の巫女が用いる楽器として『空桑の琴瑟』なる伝説アイテムが語られ、さらに戦闘シーンでは、七・七ミリ機関銃を二挺搭載した『九一戦闘機』が空を舞います。おもしろそうな設定が、事細かに登場してきます。
歴史。
伝説。
軍事。
こういった設定が、てんこ盛りになっていて、読んでて飽きません。
山田正紀のテーマとして、ジャンル融合というのがあると思います。本作ではSFと冒険小説の融合というのがそれで、ひとつひとつは異なった設定にも関わらずそれをちりばめ一つの作品に閉じこめることで、全体が融合して出来上がってくるのが特徴的です。
しかしジャンルを書き分けるだけでも大変だというのに、それを融合させてしまうだなんて。
山田作品はいつも野心的です。