小説 書評

白の協奏曲

『白の協奏曲』
山田正紀
双葉社

謎の潜水艦

──潜水艦をみた。
その日、新聞社には多くの目的情報が多く寄せられていました。そんななか、一本の電話が入ります。「潜水艦の件ですが、魚雷装置のサブロックを搭載しています」犯人と思わしき人物は、日本政府の出方如何によっては、魚雷を発射する準備があると通達します。

同じ頃、千鳥ヶ淵沿いの九段坂では騒ぎが起こっていました。何らかの飛来物が堀のなかに飛びこみ、その直後、水柱をあげたのです。

警察が動きだすと同時に、犯人は「東京ハイジャック」を宣告。都民すべてが東京から撤去すること要求し、前代未聞のハイジャック事件がはじまります。

驚くべきことに、このハイジャックを実行していたのは小さな交響団でした。オーケストラ指揮者の中条は、運営資金を確保するため集団詐欺を思いつき、団員の協力を得て犯罪に手を染めていました。
そんな折り、M交響団に目をつけたある人物が手紙を送りつけてきます。手紙の内容はM交響団を脅迫するものでした。送り主は、過激派の学生・霧生友子。脅しに逆らえない中条たちは、霧生の云うがままに行動し、やがて東京ハイジャックに加担していきます。

奇想ここにあり

とんでもなくスケールが大きい。大きすぎて笑ってしまうくらいです。
「三十年前に書いてそのまま何かが気に食わなくて本にしなかった」と作者がいうこの作品は、確かに荒唐無稽のきらいもあってここが気に食わないのかなと思ったりするのも事実ですが、一方でそれを超えるだけの説得力があって読んでいて実に爽快です。‘78初出ですからかなり初期の作品になるとおもいます。
若いというかみずみずしいというか、山田正紀にあまりみられない青臭さは逆に新鮮でした。

オススメ

印象に残っているのは、黒幕の秘書・水沢が、誰もいない東京でビルの最上階から新宿を見下ろす場面です。
水沢はトリックスター的に事件の裏で暗躍していた人物で、誰もいない新宿をビルから見下ろすという場面にきてはじめて事件の目的が語られることになります。壮大なスケールと緻密な嘘。その両方でつむいできたこのお話しの核心はまさにここで、ギリギリのバランスで保たれてきたスケール感が見事に結実するのもこのシーンなのです。ありきたりな題材ばかりを使っているのですが読んだときには、思わず、なるほどと納得してしまいました。

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