小説 書評

ふしぎの国の犯罪者たち

『ふしぎの国の犯罪者たち』
山田正紀
扶桑社

不思議の入り口

六本木にあるとあるバー。
「チェシャ・キャット」
このバーは現代にあらわれた不思議の国の入口でした。不思議の国に足を踏み入れたのは、常連客である、兎さん、帽子屋さん、眠りくんの三人組。
チェシャ・キャットの常連客は、ひょんなことから犯罪に手を出し、知らず知らずのうちに不思議の国に足を踏み入れることになります。 

日常に退屈した大人たちが、一見、不可能とおもえる犯罪に挑戦する。当然ミッションの途中で障害とピンチがやってきます。しかし、チェシャ・キャットのメンバーは、なんとかそれらを乗り越え、ゴールを目指すのです。

山田正紀のアイデア

冒険小説や犯罪小説。そんなタイプの作品ですが、本格ミステリィの技術が駆使されていることを踏まえても、これは立派なミステリィです。まるで日の目を見ない山田正紀のミステリィですがこれを読めば、もっと評価されてしかるべきです。

なるほどと唸ったのは、世界観の作り方でしょうか。「チェシャ・キャット」は不思議の国のアリスにでてくる笑った顔をした猫ですが、店の名前にチェシャ・キャットを用いることで日常と非日常の切替装置として使い、と同時に、登場人物はこのバーを通じて、不思議の国=犯罪へと誘われていきます。不思議の国のアリスと世界観が重なるところからも、ぐっと奥行きがでてきます。
そして、不思議の国を共通の設定として、兎さんの犯罪帽子屋さんの犯罪眠りくんの犯罪各々の連作を綴っているわけです。

小説のおもしろさというと、文章のうまさやストーリーに目がいきがちですが、決してそれだけではなくて作品の幅とか奥行きとか、パッケージのなかにどんなアイデアを詰めこんでいるんだろうかって、そういうことを気にして読むと、小説のたのしみ方が増えるのではないかと思います。 

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