『ストーリーメーカー』
大塚英志
アスキー新書
30の質問
文芸評論の異端児、大塚英志が書いた創作論です。今回はストーリー編です。30の質問にこたえるとストーリーができてしまうというのがこの本のウリですが、果たしてそれは本当でしょうか?
大塚の創作は記号論がベースになっています。そして大塚さんが用いる記号の多くは、プロップだったりキャンベルだったり、ハリウッドのシナリオ作りからの流用だったりします。
プロップの物語機能論
プロップという人は、ロシアの魔法民話のなかから一定のパターンを導きだした昔話研究者であり、彼は昔話におけるキャラクターの機能を以下のように規定しています。
主人公
偽の主人公
敵対者
贈与者
助手
王女と王
派遣者
追跡者
またキャンベルの神話学では、神話の基本構造として、
①出立
├冒険への召命
├召命の辞退
├超自然的なるものの援助
├最初の境界の越境
└鯨の胎内
②儀式
├試練への道
├女神との遭遇
├誘惑者としての女性
├父親との一体化
├神格化
└終局の報酬
③帰還
├帰還の拒絶
├呪的逃走
├外界からの救出
├帰路境界の越境
├二つの世界の導師
└生きる自由
という展開を導出しています。これらを用いればストーリーを作ることはさほど難しい作業ではありません。
ルーカスの神話模倣
ジョージ=ルーカスがスターウォーズの制作過程で神話学のアドバイスをとりいれたことは有名ですが、大塚は、シナリオ開発を一つの工程としてシステム化してきたハリウッド映画のやり方を引き合いに出し、物語の創作もひとつのシステムとして作れると主張しています。神話に基づいてスターウォーズが作れるなら、昔話や神話に基づいて小説作ることも可能だというのです。
これはものづくりの本質とよく似ていると思います。職人というものは師匠からやり方を真似して仕事を覚えるのですが、お話しの創作についてもお手本となる名作から模倣することで創作を学び、技術を高めることができます。
そしてそれが技術である以上、創作は特別な才能が必要とされるものではなく、覚えてしまえば誰でも使える便利なものなのとなります。
型を使いこなす
さて本書に収録されている30の質問ですが、これは『ハリウッド脚本術』フィルムアート社にあった質問項目をベースに、著者がストーリー化を図式したものです。おそらくこれに答えただけではストーリーは作れません。というのも、質問の意図を理解する必要があるからです。
実際、学生さんが書いた回答例をみても、意図を理解してないがゆえにズレた回答になっているのがけっこうあります。なので、あくまでもこの質問は質問の意図を理解してこたえる必要があり、その意味では、 ・物語の体操 ・キャラクターメーカーを先によみ、前二著の補完として本書があると考えたほうがいいでしょう。