小説以外のもの 書評

密室入門

『密室入門』
有栖川有栖
安井俊夫
メディアファクトリー

密室最強説

帯に『密室』とあったらつい買ってしまう。そんな経験があるのはなにもわたしだけではないはず。密室は思わず手が出てしまう不思議な魔力を備えています。
本著は密室のプロフェッサー・有栖川有栖と一級建築士・安井俊夫が密室について語った対談本です。

この本のすごいところは、密室の分類です。
ありとあらゆる密室を、ディクスン・カーが『三つの棺』で解説している密室講義と天城一『密室犯罪学教程』に基づいて分類しているのですが、よくぞここまで解説してくれた、と拍手したくなります。

密室は誰のもの?

なかでも興味深いのは二人の対談が、機械トリックを用いたハト時計による密室殺人に及んだときで、イチ読者たる安井さんはまるで陳腐なこのトリックを「おもしろい」と絶賛する一方で、有栖川さんは「コントみたい」とあまり乗り気ではありませんでした。
読み手と書き手のちがいがもろに出ていますね。実は読み手と書き手の好みはけっこう離れたとこにあるもので、読み手の好きな密室っていうのは、作り手としてはあまり好きじゃないということが、往々にしておこります。

もしかすると、読み手の好きな密室というのはそれが陳腐なトリックであれ、回答に至るまでにいかに大展開するかというところにあるのやもしれません。

作者からすれば、回答編で論理的な説明が求められるのでなまじ下手な密室を作るわけにもいかず、わりとテクニカルなそれに目がいきがちなのですが、読み手からするとそうじゃない。
なんでかというと、密室それ自体がひとつのロマンなんですよ、きっと。

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