小説 書評

ビッチマグネット

『ビッチマグネット』
舞城王太郎
新潮社

青春と家族

青春と家族のお話しです。
というか舞城王太郎のテーマは、いつもこのふたつに集約される気がします。

調布に住んでいる主人公の香緒里が、中学生から高校を経て大学生になって臨床心理学を学ぶまでが描かれています。概していうと、これは何者でもない私が何者かになろうとする物語になります。


恋愛に気持ちが向かない香緒里は、マンガ描いてみたり大学にいって認知行動療法を学び臨床心理士をめざしたりと、忙しい日々を過ごしています。
その過程で香緒里は、弟が巻きこまれた恋人とのトラブルに首をつっこんでみたり家族と衝突したり、そうかと思えば父親の不倫相手のハナと意気投合してみたり、弟にブチ切れして顔面ボッコボコ、あーん私ってマジわかんない! って自己嫌悪に陥ってぐるぐるぐる~ってなったり。自分でも収集つかなくなるくらい濃い青春を送っています。

作中にもでてくるのですが、本作はグッドウィルハンティング的な主題を抱えていて、自分の内面からくる苦しみを解き放つという表現がぴったりです。

芥川賞候補

ただ最初読んだとき、なんかマイルドだなと思いました。控えめというか、舞城特有の荒々しさがなかったのは否定できません。なんでかなって考えてたところ、理由がわかりました。実はこれ芥川賞候補作だったのです。

前回『好き好き大好き超愛してる』でモブノリオ『介護入門』に敗れさった舞城王太郎としては、選評委員のウケをよくしたい。そんな心理が働いたのではないか、と邪推しています。
特に石原慎太郎は、前回タイトルを読んだだけでうんざりしたといっているように、作品をせめて芥川賞の枠のなかに収まるよう配慮しているようなところがちらほら見受けられ、そのへんがどうもまどろっこしくいとおもいます。舞上王太郎、日和ってはいけません。

舞城節

で──。
いささかマイルドではあるものの、心の奥にある舞城王太郎の深いところっていうのは健在で、あれだけ内面にバシバシ入っていけるのは村上春樹をのぞけば他になく、舞城萌えできるという意味では十分楽しめる作品です。
が深いっていうのは、読んでのお楽しみ。ひとつだけ本作にある深い台詞をあげるなら、これですね。

男って凄い。
チンポひとつでこんだけいろんな人を振り回すことができるんだもんな……。

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