小説 書評

ダブル・ジョーカー

『ダブル・ジョーカー』
柳 広司
角川書店

あらすじ

昭和初期──。
日本陸軍にあった秘密諜報機関養成所、通称D機関。D機関を創設したのは魔王とよばれた天才スパイでした。

『ダブルジョーカー』は本作に収録されている短篇のタイトルです。 陸軍中佐の風戸は、ある日、陸軍参謀本部の阿久津中将により「統帥権綱領」を取りもどすよう命じられます。阿久津中将の話によれば、「統帥権綱領」は元英国大使・白幡を経由して、英国スパイに渡ろうとしているのだといいます。風戸はそれを取り戻さなくてはなりません。
さらに阿久津中将は、同じ任務をD機関と風機関のふたつに命じていることを告げます。 

D機関風機関

阿久津中将が命じたその任務は、奇しくもふたつの諜報機関の矜持と存亡を賭けた生き残り競争でもあったのです。
さきに「統帥権綱領」を取り戻したほうが正式な諜報機関として認められるのはいうまでもありません。自信満々の風戸は、書生をもぐりこませ白幡の動きを探りはじめます。
そして「統帥権綱領」を取り戻すための策を巡らせるのです。

原型は怪盗ルパン

これは騙される側のお話しといえるでしょう。この手のミステリィはアルセーヌ・ルパンに原型があります。ルパンならきっとこう盗むにちがいない。そう思わせて、別の手口で盗み出す。そして、しまった、ルパンにやられた! となるのがパターンです。

D機関はあくまで設定としてでてくるだけで、実体として登場することはほとんどありません。にも関わらず、登場人物がD機関の影に怯えます。あるいは対抗心を燃やし、嫉妬するのです。 そうやって執拗に意識させることが、ミスリードの仕掛けにつながります。ミスリードを仕掛けたあとは、予定通り終盤でひっくり返してしまえばいいのです。

「騙される側のお話し」とか小難しくいってますが、要はいかに勘違いするかというお話しですね。

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