『里見八犬伝』
滝沢馬琴
文しかたしん
ポプラ社
日本版RPG
日本最古のRPG作品です。南総里見八犬伝は江戸時代後期、滝沢馬琴によって著された読本で、文化十一年(一八一四年)に刊行が開始され、二八年をかけて全九八巻、一〇六冊にわたって書かれた大作で、日本の長編伝奇小説をさかのぼれば里見八犬伝にいきつくでしょう。
馬琴はこの物語の完成に四八歳から七五歳に至るまでの後半生のほとんどを費やしており、その間、失明という困難に遭いながら、口述で物語をつむぎ、息子の妻であるお路に筆記をさせ最終話まで完成させています。まさに執念のひとことに尽きます。
南総里見八犬伝は、足利後期を舞台にしていて、安房国里見家の姫・伏姫と神犬八房の因縁によって結ばれた八人の若者(八犬士)が活躍するという筋で、八犬士は仁義八行の玉と身体のどこかに痣を持っていて、最初ばらばらだった八犬士は、因縁に導かれるように里見家の下に集結していきます。
もう八人いるから大変です。広げた風呂敷が大きくて、無事完結したことが奇跡のようです。そうおもって読むとありがたみが増します。
八犬士あらわる
冒頭はワタリの一族犬兵衛と糠助が登場し、犬兵衛たちがつなぎ役となってバラバラだった八犬士が集うかたちで展開するのですが、基本は、
犬塚信乃
犬川荘助
犬山道節
犬飼現八
犬田小文吾
犬江親兵衛
犬坂毛野
犬村大角
が互いに助けあい、悪役・妖怪どもを退治していくストーリーです。
やがて八犬士は安房里見家のもとに集り、包囲網を敷いて待ちうけていている関東の雄・巨田助友と、最終決戦を迎えることになります。
個人的には、女田楽師の旦開野が好きでした。とてもトリッキーなのです。江戸時代にすでにこの手のトリックが用いられていたのかと思うと、感慨深いですね。
ベースは仇討ちや謀略で、敵があくどかったり、悪さをしていたり、それが原因で八犬士がピンチに陥るんですけど、ひとりの犬士がピンチになるとほかの八犬士が助けにやってきて敵を倒して、八犬士がひとりずつ集まっていく。そして次のステージに進む、という流れになっています。中盤から終盤にかけて、どうしようもない大ピンチになってくると八犬士の玉が光って伏姫様のご加護が発動するのですが、思わず「おお!」ってテンションあがります。歌舞伎でいう、待ってましたの気分ですね。
おもしろい話は似通っている?
興味深いなあと思ったのは、庄屋、代官、豪族のキャスティングです。特に豪族なんか実在した地方の豪族と重ね合わせるように作られていて、その作り方がなにか似てると思ったら、実は華麗なる一族や不毛地帯といった山崎豊子の小説にそっくりなのです。
また、統治者として豪族がいるんだけど裏で豪族をあやつる妖怪がいて、真の敵は妖怪だ! なんていうパターンでいうと、鋼の廉金術師のホムンクルスにピタリと当てはまります。
本当におもしろい作品の舞台装置や世界観っていうのは、何百年も前から発明されてるんですよね。物語のおもしろさは、ある意味で不変だとおもいます。