小説以外のもの 書評

すごい宇宙講義│多田将

「すごい宇宙講義」
多田将
イースト・プレス

この本をひらくと、重力、特殊相対性理論、ブラックホール、暗黒物質、宇宙創生という語句が、ずらりと並んでいます。滅多にお目にかからない単語に、尻込みしそうになります。この本を手にとったとき、物理? 宇宙学? ニュートリノ? それって本当におもしろいのといった疑問が、人しれずわきました。

■物理の世界

例えば、「すごい宇宙講義」のなかで、重力によって光は曲がるという説明があって、
”アインシュタインが登場するまでは、「質量のあるもの同士が引き合う」現象は、ニュートン力学によって「両者間で引力が働くから」と説明されてました。
ところがアインシュタインは、「引力が働いて互いに引き合うのではなく、質量によって空間に歪みが生じるから」”

と述べています。

なるほど見方がちがうのね。そう感心する一方で、「だからなに?」とつっこみたくなる気持ちがめばえます。それは、もう激しいほど。苦しいほど。愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないほど。

至極あたりまえのことじゃないのか。そんなこと堂々と説明されても、素人には、ハァ……くらいが関の山です。

■失敗の連続

で───。「すごい宇宙講義」は本当におもしろいのか? という疑問ですが、大丈夫です、おもしろいです。かなりオススメです。

なにがおもしろいって、この本をよむと、世界はけっこう失敗だらけだというのがわかります。

”ここでは優秀な学者がいっぱいいて、その人たちが思いついたものがすべて正しくて、先ほどの年表が整然と作られたように見えたかもしれませんが、それは大間違いで、ほとんどの仕事は失敗しているんです。山のような失敗の残骸の中から───成功したものだけを並べたら、あの美しい宇宙年表が出来上がった、ということなんですね”

天才科学者たちのひらめき、苦悩と挫折、そして壮大なる勘ちがい。そういった物理学のヒストリーを読むにはベストな一冊です。

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