
「クリエイティブ思考の邪魔リスト」
瀬戸和信
朝日新聞出版
オラクル、マイクロソフト、エイサーといった名だたるIT企業を渡りあるき、現在、ウェアラブル市場を拡大させようと奮闘している筆者が、「クリエイティブ思考」について語っています。
クリエイティブとは何か?
筆者の言葉を借りれば、クリエイティブとは、一部の天才に与えられるものではなく、普段の仕事に通じるスキルになります。
■アイデアは拙速

”アイデアは、動きながら身に付けろ!”
これは本書で語られている一文です。なかなか示唆に富んでいます。
変化の速いIT業界では、アイデアだけで終わってしまっては、元も子もありません。勝負はアイデアを育て、市場に受け入れられるかどうか、にかかっています。ゆえに何度も修正して仕上げることが、本当の「クリエイティブ思考」なのです。

瀬戸和信さんは、たいていの人はアイデアの部分でエネルギーを使いきり、その先に行けなかったり、完璧を目指すがゆえに先に進めなくなってしまうと指摘しています。そしてそうならないためには、些細なことに気を取られず、最初の一歩を踏み出すおおらかさが必要だ───とのべています。
さすが、クリエイティブ。
いいことが書いてあります。
■恥とアイデア

日本人は、よくシャイだといわれます。いわゆる恥の文化です。
物事をなすのに、恥かどうかで判断するので、中途半端になったら他人に文句いわれるのではないかとか、ついそのことを考えます。最初の一歩はいいけど、そのあと失敗したらどうするのかとか、日本人は余計なことを考えがちです。
「クリエイティブ思考」に照らしあわせるなら、日本人は、根っこからクリエイティブになじまない性格をしています。小さなことを素早くはじめ、それをどんどん大きくする過程にクリエイティブの価値があるのですが、大人は恥を掻くのが嫌なので、なかなか新しいことをはじめようとしません。
大きな企業では、完全に出来上がった大きなアイデアを、完璧なかたちで展開することもあるでしょう。新製品のCMなんか見たときは、パッと世界がかわったような印象をもつこともしばしばです。

しかし、それはクリエイティブでもなんでもなくて、ただの手続きです。予定通りの実行に過ぎません。
すくなからず、日本の社会では新しいアイデアを持ち出すと、反発や反対に遭うのは目に見えています。そのため、その人たちを見返すなり説得するのに、あらかじめ既成事実をつくっておくのは有効な手段です。そういう意味で、最初は小さく始めるというのは、理にかなった方法です。
■規則の島
「クリエイティブ思考」には直接関係しないものの、すごく興味をひいたのは、外国人が日本を<規則の島 Japan is a land of rules>と評していたことです。おそらくこれは生活の隅々にまで規則が行きとどいた状態、礼儀正しく、そしてオートマチックに動く日本人の様を指したものでしょう。

しかし、ここで日本人の心理にせまると、隅々にまで規則を配し、頑なにルールに則ろうとするのは、ルールを守ることで無用な衝突を避けようとする心理───無意識の防衛本能ではないかと思えます。なぜなら、おなじ規則をつかっていれば、コミュニケーションしなくて済むからです。コミュニケーションをとらなければ、それだけラクができます。
察しと思いやりを尊ぶ日本人には、案外、そんな思考があるようにおもえます。コミュニケーションが不得手なのは、規則が原因といえるかもしれません。